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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 高所得者増税のまやかし

 政府与党は、2018年度の税制改正で、低所得者の減税財源として高所得者の増税を検討している。私はこれまで、一貫して庶民の減税と高所得者の増税を主張してきたから、一見すると、私の主張と政府の税制改正の方向性は一致しているようにも見える。しかし、実は政府がこれからやろうとしている高所得者増税は、とんでもないまやかしなのだ。

 例えば、政府は給与所得控除の圧縮を考えている。給与所得控除というのは、サラリーマンに認められた必要経費の概算控除だ。現行税制では、年収180万円以下の部分は収入の40%、180万円から360万円までの部分が30%、360万円から660万円の部分が20%と、「経費率」が徐々に下がっていく。
 なぜ下がっていくのか。仕事の時に着る服を例に考えてみよう。年収が低くても、一般的にはとりあえずスーツは買わなければならないから、低年収のサラリーマンにとっては、大きな負担になる。昇進して年収が増えたら、少し上質のスーツを買う必要がでてくるが、それでも年収が2倍になったら、2倍高いスーツが必要かというと、そうでもない。だから、年収が高まるほど、それだけ経費率が下がる形になっているのだ。

 5年前の税制では、この給与所得控除は、いくら年収が高くても最低5%が認められていた。ところが、4年前から、年収1500万円で給与所得控除が頭打ちになり、昨年は1200万円、今年は1000万円で頭打ちとなった。つまり、年収1000万円を超えると、稼ぐのに一切、経費がかからないと判断していることになる。
 しかし、それは果たして本当だろうか。宴会や同僚の結婚祝いなど、社内での地位が上がれば、負担すべき金額は当然増えていく。経費ゼロというのは、あり得ないのだ。
 ところが、自民党税調では、この給与所得控除の頭打ちを、年収800万円〜900万円に引き下げようとしている。もちろん、読者の多くが「自分の年収は、そこまで届いていないから、増税したって構わない」と考えるだろう。しかし、こうした“小金持ちサラリーマン”が増税される一方で、本当の金持ちは野放しになっている。

 いい例が、芸能人や金融長者たち。彼らは、みな自分の会社を持っている。事業に必要だという名目が立てば、すべて経費で落とすことができる。何千万円もするような高級外車に乗っていても、それは経費で落ちるのだ。サラリーマンの必要経費に上限を設けるのであれば、会社の経費で乗る車に対しても、500万円までといった上限を設けるべきだ。
 また、税率も問題だ。サラリーマンの場合、年収1800万円を超えると40%の税金がかかる。別に住民税も10%かかるから、収入の50%が税金に持って行かれる勘定だ。一方、本当の富裕層は、収入の大部分を株式の配当や譲渡益が占めている。こちらは、分離課税で、住民税込みの税率が20%にすぎない。何十億円稼ごうと、税金は20%なのだ。

 こうした事態を踏まえれば、低所得層の減税財源確保は容易だ。すべての所得を合算して、累進税率を適用する総合課税に移行すればよいのだ。

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