これらの言葉は聞こえが良く、労働者に働き方や働く場所の選択肢を与えているような感じを受けるが、現実に起こっていることを見れば、アベノミクスによる企業優遇政策の一つにすぎないことがわかる。
従業員を3000人以上抱える某大手企業Aの例を挙げてみよう。
A社は長年アルバイト以外『総合職正社員』のみであったが、2011年に転居を伴う異動が発生しない『地域限定正社員』、'13年に職種を選択することができる『専門正社員』を導入した。まさに働き方を選択できるようになったのだが、自ら進んで『総合職』以外を選択する従業員はほとんどいないそうだ。
なぜなら、給与が明らかに違っているから−−。同じ年齢で『総合職』を100とすると、『地域限定』は80、『専門』は60となっている。「会社側と従業員側、双方の同意のもと決定する」という規定があるが、現実には「従業員が同意させられる」という表現の方が正しい。
この“給与リストラ”のターゲットとなっているのが40代から50代前半だ。バブル期に大量採用された世代であり、終身雇用制を信じて会社に忠誠を誓っている世代である。ある者は遠方への転勤をちらつかされ『地域限定』に、また、ある者は40代後半になって初めて営業の第一線への異動を示唆され『専門』になった。年収700万円が、突如400万円になるのだ。
年功序列の終身雇用による給与体系では、40代に給与が伸びる仕組みになっている企業が多い。そのため、会社側はこの職群変更を繰り返すことにより、労働力を維持したまま膨らんだ人件費を大幅に削減することができるというわけだ。
これに対し、従業員側の対抗手段としては“転職”がある。やすやすと収入を半減させるわけにはいかない。実は、安倍政権は『失業なき労働移動の実現』として転職を推奨している。雇用調整助成金から労働移動支援助成金(平成26年度予算301億円)へのシフトがその象徴ともいえる。
この転職推奨も従業員側の収入減少につながるという見方があるものの、給与リストラの対象にされるくらいならば転職によるキャリアチェンジに賭ける方がマシだろう。アベノミクスによる景気回復に伴い「転職35歳限界説はなくなった」との声もある。厚生労働省が公表した平成26年度平均の有効求人倍率は1.11倍で、前年度に比べて0.14ポイント上昇するなど、数値面では転職環境は良好にも思える。
では、果たして今の転職市場はおやじ世代にも優しいのだろうか。