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亡霊軍人の帰還(3)

 最近はやや少なくなってきたようだが、かつては外地で戦死した将兵が亡霊となって帰郷を果たす怪奇譚が、終戦記念日やお盆の定番として毎年のように語られ、テレビなどでもドラマ仕立てで取り上げられることがあった。お盆の時期に語られる怪奇譚が定番化したのは文化文政期から幕末以降とされるが、当時は武士階級を怪談のネタにすることそのものがはばかられたためか、あるいはたんに不人気だったためか、亡霊武者が故郷に帰るといった趣向の話はあまり伝わっていない。

 亡霊軍人が帰郷する怪談話が増えるのは、第一次世界大戦後のシベリア出兵で大きな損害を出してから、昭和初期に怪奇幻想小説が流行し始めたことがきっかけとされている。だが、怪奇小説の流行は新聞などから批判された上、警察の取り締まりもあったことから急速にしぼみ、復活したのは太平洋戦争の敗戦後であった。このような事情から、戦前や戦中における軍人の怪奇譚は同時代にあまり語られず、その多くは戦後に「過去を振り返る」形で語られている。しかし、戦中から語られていた亡霊軍人の帰還譚がなかったわけではなく、中でも旭川歩兵第二十八連隊の怪奇譚は現在も地元の語り草となっている。

 旭川の歩兵第二十八連隊から派出された一木支隊が、最悪の戦場とも呼ばれるガダルカナルの戦いで壊滅した1942年の夏。駐屯地付近の官舎では窓が燃えるように赤く染まるなどの怪異が目撃され、やがて「深夜、兵隊が行進して駐屯地に入っていったが、歩哨の誰何にも答えず、追いかけたら誰もいなかった」との噂が将校の留守家族にまで伝わり、人々を不安がらせたという。

 やがて戦死公報が続々と届き、深夜の兵隊は戦死した将兵の幽霊だったことがわかるとともに、残された家族は深い悲しみに包まれたという。

(了)

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