実際、細川さんは事故発生からしばらくの間、預かった周囲の家畜を含め一頭ごとに被曝検査を行い、安全が確認され次第、北海道や宮崎県の畜産農家に飼育を斡旋したという。その数はざっと760頭にも達した。
現在も細川さん所有の牧場には、30頭あまりの馬が放牧されている。
「こいつらのエサ代は月に100万円くらいかかる。手持ちの貯金を取り崩したり、善意の義援金でなんとか持ちこたえてるけど、いつまで続くか…」
細川さんは東京電力に対し、損害賠償を求めている。請求額は2億1000万円。
「事故のせいで馬が売り物にならなくなり、当然、収入もゼロになった。事故前にいた130頭の馬のうち、本来なら売却できる87頭を無料で観光牧場や乗馬クラブに寄付したんだ」
殺処分という国の方針に、どうしても応じられなかった細川さん。無料で提供したこれらの分を東電に対し請求したのだという。
「馬一頭あたりの価格200万円と飼育代などを加えた87頭分が請求額の内訳だ。これに対して東電側から今年4月、一時金として200万円支払われたよ」
とはいうものの微々たる金額。2カ月分の飼料代で消えてしまい、要求額とはほど遠い。この件について東京電力に直接聞くと「個別の事案について詳細に答えることは差し控えます。請求内容については、真摯に対応させていただきます」(広報課)と回答した。
原発事故が破壊したのは人々の暮らしだけではない。生態系への影響は確実に始まっている。福島第一原発から60キロ以上離れた福島市西部の山中で捕獲したニホンザルの体内から、筋肉1キログラム当たり1万ベクレル以上ものセシウム量が検出された。調査したのは日本獣医生命科学大学の研究グループだ。
「セシウム含有度の高い樹皮を食べたのでしょう。明らかな内部被曝です。セシウム量が多いほど造血機能の異常、白血球、赤血球数の減少、免疫力の低下などが認められます」
飯舘村の馬の不可解な死と原発事故の因果関係は、今のところ不明である。このことが解明されるまで、これを“警鐘”と捉えるかどうか、我々自身が決めなければならない。