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公家商法の末路 JT(日本たばこ産業)飲料撤退裏事情

 「上を向いて歩いた。柱にぶつかった。それでも、前を向く」「期待した俺がバカだった。明日の自分に。それでも、前を向く」「不可能なんてない。頼む側の頭の中には。それでも、前を向く」−−。日本たばこ産業(JT)が“超短編小説”と銘打ち、2012年から始めた缶コーヒー『ルーツ』の電車内広告の一部である。
 しかし、同社が9月末をメドに飲料事業からの撤退を発表した今となっては、百話に達したこの「それでも、前を向く」のキャッチコピーこそ歴史に残るブラックジョークではないか。

 JTが多角化の一環として飲料事業に参入したのは昭和63年だった。その10年後には自販機大手のユニマットコーポレーション(現ジャパンビバレッジホールディングス)を買収し、事業拡大を目指してきた。そのJTが、なぜ「前を向く」ことを諦め、飲料事業からアッサリ撤退するのか。
 大久保憲朗副社長は2月4日の記者会見で「将来の成長戦略について検討を重ねてきたが、飲料事業は競争が厳しく、JTグループの中長期的な成長に貢献していくことは困難と判断した」と説明した。確かにJTの飲料事業は売上高が自販機による他社製品の販売分を含めても1845億円(2013年度)。自社の飲料だけに限定すれば500億円にすぎず、大幅な営業赤字が続いている。

 旧専売公社を前身とする同社は、たばこ事業一本やりのビジネスモデルに危機感を抱き、食品、医薬品、飲料の3事業に進出、多角化路線に打って出た。このうち加ト吉(現テーブルマーク)買収でテコ入れした加工食品事業はどうにか黒字転換したとはいえ、医薬品事業は飲料に輪をかけた赤字事業である。その医薬品を残し、飲料の将来性に見切りをつけた本当の理由は何か。
 「JTの医薬品事業は2016年度に黒字化のメドが立った。これは小泉光臣社長が鼻の穴を膨らませて明らかにしたことです。鳥居薬品を買収するなど大枚を投じたJTが、やっと果実を得ようとしている今、これをつぶすわけがない。その点、事業規模が優劣を決する飲料業界でJTの販売シェアはわずか1.6%にすぎず、業界ランクは10位に低迷している。選択と集中の事業戦略を踏まえれば、もう撤退しか道がなかったのです」(経済記者)

 JTの飲料事業で知名度が高いのは、冒頭に述べた缶コーヒーの『ルーツ』と清涼飲料水『桃の天然水』だ。うち、1996年に発売した桃の天然水は大ヒットしたものの、2年後に製造段階でカビが混入していたことが判明、回収騒動に発展した。2000年に発売したルーツにしても、自販機ルートでは主力商品に育った半面、コンビニなどへの販路が広がらなかった。
 それどころか「コンビニ各社が始めた1杯100円の『淹れたてコーヒー』に圧迫された」(関係者)のが実情。繰り返せば「それでも、前を向く」とはいかなかったのだ。

 意外に思うかも知れないが、JTの飲料事業には生産拠点がなく、外部企業に製造を委託している。すなわち下請けへの“丸投げ”だ。その脈絡で捉えると、2007年末から2008年にかけて起きた、いわゆる“毒入り餃子事件”(JTフーズが中国から輸入した冷凍餃子による食中毒事件。後に工場従業員による意図的な殺虫剤混入が発覚)の構図と重なってくるから妙である。飲料事業部に100人を超えるスタッフがいるとはいえ、「他人のふんどしで相撲を取ってきた」のだ。どう陰口されようと、スピーディーな撤退も無理はない。
 実際、JTの“公家商法”は筋金入りだ。大久保副社長は撤退会見の席で「事業売却を検討したのか」との質問に「他社と交渉したことはない」と即答、返す刀で「自販機事業は当面継続し、提携や売却も含めさまざまな可能性を検討する」と答えた。これにはルーツや桃の天然水など同社が販売してきた商品の対応も含まれる。実にアッケラカンとした発言に市場関係者は、驚きを隠さない。
 「会社が心血を注いだ事業から撤退する場合、本来ならば身辺整理をキッチリさせる。それを差し置き『撤退します』と宣言したこと自体、専売公社時代の親方日の丸体質にドップリ浸かっている証拠。浮世離れした経営感覚には、もう絶句するしかありません」

 大株主である英国の投資ファンド、ザ・チルドレンズは以前から執拗に増配を要求、筆頭株主の財務省にJTの完全民営化を求めてプレッシャーを掛けている。
 決算期変更で、今年の株主総会は3月末に開かれる。早くも情報筋は「チルドレンズが飲料事業からの撤退に絞ってネチネチ攻め立てる公算が大きい」と指摘する。叩けば、いくらでも埃が出る企業体質を引きずるJTのことだ、果たして小泉社長は「それでも、前を向く」と言い切るのか。

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