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【コンピューターゲームの20世紀 70】リセットは邪道か常道か『Wizardry #1 Proving Grounds of the Mad Overlord』 <後編>

 前回に引き続き『Wiz』の魅力について語っていきたい。

 『Wiz』のゲーム性はいわゆる3DダンジョンRPGであり、探索の拠点である城や宿屋、商店などは文字情報のみで表示され、ゲーム中のほとんどは20×20マスで構成の地下10階まであるダンジョンで過ごすことになる。ダンジョンは主観視点の疑似3Dで表示されており、マッピングをせずに移動しているとあっという間に迷ってしまう。この3Dダンジョンに耐性のないプレイヤーは当時から一定数おり、現在でも3DRPGは決してやらないというプレイヤーも少なからず存在する。しかし、現在では本作のマップはネットなどで簡単に手に入るため、当時二の足を踏んでいたプレイヤーにも是非一度本作をプレイしてもらいたい。当然、他人が作ったマップを見ながらでは昔の興奮には及ばないものの、アイテム収集など本作ならではの楽しみは充分に味わえるはずだ。

 前回、本作のシナリオはかなり削ぎ落とされていると書いたが、実際そのほとんどをプレイヤーが知ることはないし、知る必要もない。とりあえずラスボスであるワードナを倒せばクリアだということを覚えておけばOKである。RPGではゲーム性の要でもある謎解きなどの要素もほとんどなく、実は地下10階まであるダンジョンで捜索が必要な階はごくわずか。地下1階でいくつかのアイテムを取ったらエレベーターで4階にいき、そこで次のエレベーター起動のための「BLUE RIBBON」を取得。さらにエレベーターで9階にいき、シュートで10階に落ちればワードナはすぐそこである。実際にはレベルを上げるために戦闘を繰り返したり、ある程度の装備が必要だが、クリアだけが目的であればファミコン版などは1日でなんとかなってしまう。最序盤のみ地道にレベル上げが必要だが、その後は1階の「MURPHY'S GHOST」で効率的な育成が可能。「BLUE RIBBON」を守る敵を倒せるようになれば、後は9階であまり強くない敵を倒して武器防具を揃え、その後は10階巡りがローテーションになるだろう。

 ただし、これはある程度リセットが前提の話で、本来のゲーム性であるノーリセットプレイでは本作はなかなか凶悪な一面を覗かせる。もしもパーティーが全滅してしまった場合には死体はそこに残されたままとなり、プレイヤーは他のパーティーで回収に行く必要がある。当然予備パーティーなど育てていない場合には、再び1からキャラを育て直す必要があるのだ。さらに死んだキャラの復活に失敗すると死体は灰になってしまい、そこからの復活にも失敗するとキャラはロストとなり永久に失われてしまう。しかも、首切りの即死攻撃であるクリティカルヒットや、体力を一定数奪う強力なブレス、高レベルの呪文などによって、死や全滅は本作にとって日常茶飯事である。さらにキャラのレベルを下げるエナジードレインという恐ろしい攻撃もあり、これらを前にリセットを封印できるプレイヤーはどれだけいるであろうか。

 ちなみにオリジナルであるApple II版にはダンジョン内でのセーブはそもそも存在せず、10階の敵からはほぼ逃れられないという鬼仕様。リセットした場合はダンジョンに入る前の城でのセーブデータから復帰することになる。

 こういった仕様からか一部のマニア(というか懐古的なプレイヤー)を除き、本作のリセットを許容するプレイヤーは多い。もっと言ってしまえばリセットが前提のゲームだと思っているプレイヤーも少なからずいるのだ。その原因となったのがファミコン版の存在である。かなり後発であったファミコン版は各種PCと比較してもリセットからの立ち上がりが恐ろしいまでに速く、ことあるごとにリセットするプレイヤーが続出した。また、ファミコン版はPC版に比べてグラフィックが素晴らしく、呪文や罠の解除にキーボードで文字を打ち込む必要もないため、実に快適に『Wiz』をプレイすることができたのだ。

 このファミコン版によって日本における『Wiz』人口は劇的に増加し、かなりマニア向けゲームである本作が多くの人に遊ばれるきっかけにもなった。ちなみに移植を手がけたのは遠藤雅伸氏が率いるゲームスタジオで、その完成度の高さはロバート・ウッドヘッド氏をして「その時点においてはベストの『Wiz』」と言わしめたほどである。

 先ほどファミコン版プレイヤーにリセット前提の人が多いと述べたが、これには理由がある。実はファミコン版には後年になって発覚した重大なバグがあり、それによりリセットをして当たり前のゲームになっていたのだ。そのバグとはプレイヤーキャラのアーマークラス(AC)が戦闘に全く反映されていないことで、代わりに敵のACの値がプレイヤーキャラに適用されている。本作におけるACとはいわば防御力に相当するもので、この値が低いほど敵の攻撃が当たる確率が下がっていく。これが意味を成していないということは、どれだけ強力な防具を装備していても裸と同じだということ。おかげでファミコン版は敵の攻撃が当たりやすく、エナジードレインやクリティカルヒットを食らいやすかったのである。これにノーリセットで挑めというのはどだい無理な話。ファミコン版プレイヤーの判断は実は正しかったのだ。

 2回にわたって『Wiz』について語ってきたが、実はまだ触れていない話が多くある。例えば種族や善悪、職業といったキャラのことや、戦闘システム、罠の解除などの話から数多く存在する裏技的なものまで、語り尽くそうとすればまだまだ足りないのだが、あまり同じゲームが続くのもどうかと思われるのでこのあたりにしておく。もしも反響が大きかったら再び『Wiz』の世界に皆さんをご招待したいと思っている。
(須藤浩章)

■DATA
発売日…1981年
メーカー…Sir-Tech
ハード…PC他多数
ジャンル…ロールプレイング

(C) 1979-1985 BY ANDREW GREENBERG, INC., AND ROBERT WOODHEAD, INC.

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