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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 ロシアンルーレット禁止

 安倍総理は、日本時間で9月22日未明に、ニューヨーク市内のホテルで米国のトランプ大統領、韓国の文在寅大統領と三者による首脳会談を行った。三首脳は、「北朝鮮圧力のさらなる強化が必要だ」との認識で完全に一致したということになっているが、日米と韓国の間には大きな溝が横たわっていた。
 国連総会で北朝鮮を完全破壊する可能性に言及したトランプ大統領は、さらなる圧力強化を主張して、これに安倍総理も完全に同調した。しかし、韓国の文在寅大統領は、会談直前に北朝鮮に対して800万ドル(約8億9000万円)相当の人道支援を決定しており、日米両首脳が韓国に慎重な対応を求める事態になったのだ。

 もちろん、北朝鮮への圧力は必要だろう。しかし、武力行使に踏み切ることは、何としても避けなければならない。もし武力行使に踏み切れば、北朝鮮が暴発して、韓国と日本に数百万人の犠牲者がでる可能性が高いからだ。
 ICBMが飛んでくる可能性があるとはいえ、本土の安全がほぼ確保されている米国と日韓では、立場が大きく異なる。その意味で言えば、自国民の安全を最優先にしようとする文在寅大統領を非難すべきではない。

 問題は、「対話ではなく、圧力」と言い続けている安倍総理だ。北朝鮮国内でガソリン価格が3倍に跳ね上がったという報道がなされているように、国連制裁は、確実に効果を上げはじめている。その状態で、さらに圧力を強めれば、北朝鮮が暴発しかねない。
 暴発の可能性は、米国も同じだ。三首脳の会談でトランプ大統領は、「米国と通商をするか、それとも、ならず者国家の北朝鮮と通商をするのか、どちらかを選択することになる」と語った。ブッシュ元大統領は、イラク戦争を始める前に、「我々につくのか、テロリストにつくのか」と言った。いまの状況は、そのときと重なって見えるのだ。
 これまで、米国と北朝鮮の間で行われてきた非難の応酬は、チキンレースとまで呼ばれているが、このままでは、完全に“ロシアンルーレット”の状態になってしまう。仮に、何かのきっかけで軍事衝突が起きれば、一気に戦争へと発展し、北朝鮮、韓国、そして日本の一般市民に、100万人以上の犠牲者が出ることになるだろう。

 北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)を脱退し、核実験と弾道ミサイル発射を強行した1994年、アメリカは北朝鮮攻撃態勢を完全に整えた。しかし、韓国の強い反対を考慮した当時のクリントン政権は、カーター元大統領を私人として北朝鮮に派遣し、それが北朝鮮への支援と引き換えに核凍結を実現させる米朝枠組み合意に結び付いたのだ。戦争を回避するためには、今回も同じようなパターンしかないだろう。
 そこで問題になるのは、カーター元大統領の役割をいったい誰が果たすのか、ということだ。
 ここまで罵り合いを続けてしまうと、残念ながら、米国からそうした人物が出てくるとは思えない。だから、第三国の誰かがその役割を果たす必要がある。安倍総理がその役割を果たせば、憲法改正を実現するよりも、ずっと歴史に名を残すことができるだろう。今からでも遅くはないのだ。

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