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CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONも移動! 若き二冠王者矢野啓太。ベルトを、観客を、そして時代をも自らに引き寄せる

 2010年下半期。地下プロレスはこの男を中心に回ったといっても過言ではない。その男の名とは…、矢野啓太。ご存知、ご存じ初代WALLABEE TV CHAMPIONであり、先日の高田馬場『ALAISE』における『EXET-56 WANABEE』でのタイトルマッチで、地下の守護神的存在・富豪2夢路を撃破したのも、まだ記憶に新しいところ。
 その矢野啓太がこの日、もう一つのシングル王座に挑戦。それがCAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのベルトだ。ただ、タイトルマッチの開催は事前に発表されていたものの、例によって対戦相手は依然未発表のまま当日を迎えた。そして入場テーマ曲が鳴り、まず矢野が登場。続いて第8代CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPION“地下の悪童”ジョータが登場してきたのを見て、観客は初めてこの試合がCAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONSHIPであることを知ったのである。

 地下プロレスが日本に上陸するずっと以前。日本において“地下”と名のつく試合が、知る人ぞ知るといった形で密かに開催されていた。それが「地下室マッチ」である。CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのベルトには「UNDERGROUND CATCH WRESTLING」との刻印がなされ、黒とシルバーのみでデザインされたそのベルトは“漆黒の闇の闘い”の王者にふさわしい地下の称号でもある。矢野にとってそれは、WALLABEE TV CHAMPIONのベルト同様に、まさしく何がなんでも手中に収めたいベルトであろう。

 このベルトは、かつて地下室マッチを戦場にしていた富豪2夢路も腰に巻いたことがあるベルトであり、そしてその夢路を破ったのがジョータであった。その後、CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのベルトは地下プロレスのリングへと場所を移し、まさしく強者の象徴として幾多のレスラーの腰を渡り歩くことに。ベルトはジョータから梅沢菊次郎、小笠原和彦へと移り、再びジョータのもとへ戻ってきていた。矢野自身もデビュー当時に地下室マッチのリングに参戦していた過去を持ち、今にして思えば地下室マッチの“リング”は、矢野がプロの洗礼をひたすら浴び続けた懐かしの学び舎ともいえる。そうした忘れ形見が、まさにCAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのベルトなのだ。

 テーマ曲が鳴って入場してきた矢野の姿を見て、観客は何とも言えない驚きの表情を見せた。それは、この日の矢野のコスチュームが地下プロレス初使用の“ドインク”のコスチュームであったからだ。“道化師”のデザインをあしらったドインクコスチューム。一見、殺伐とした地下プロレスのリングとは不釣合いなコスチュームにも映る。では、なぜ矢野は数あるコスチュームの中で、CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのタイトルマッチの日にこのコスチュームを選んだのか? また、これまでこのコスチュームを着る時、矢野は必ず顔にピエロのペイントを施していたのだが、地下のリングではあくまで素顔のままである。“地上の闘い”と“地下の闘い”で、矢野がどのような想いでこうした細かな部分を使い分けているのか。観客への謎かけ? いや、それ以前に王者ジョータに対して巧みな心理戦を仕掛けていたのかもしれない。“革命王子”矢野啓太はこの日、“革命道化王子”として、忘れ形見のタイトルマッチに臨んだのであった。

 さらに気になることがもう一つ。偶然か否か。矢野は入場時に富豪2夢路がしたのと同様に、IVANOV ROGOVSKI Jr.指名リングアナウンサー“カナディアンタイガー”ブラック・トムキャットを一瞥したのである。はたしてこの行為が意味するものは、いったい何なのか? 一方、ジョータはリングサイドの観客が食べていたフライドポテトをひょいとつまんでそれを口にくわえ、尻で手を拭きながらリングイン。これもまた、王者の余裕ゆえの行動なのか?

 試合は腕の取り合いからスタートし、足首の極め合いからジョータのスープレックスからの腕ひしぎ逆十字固めで、矢野がロープエスケープ。矢野はこの試合、ジョータのサソリ固めでもロープに逃れ、ロープエスケープは計2回に。反面、王者のジョータは、矢野の腕ひしぎ逆十字固めを逃げた1回のロープエスケープのみで済んだ。一方ダウンは、グラウンドで上になった矢野にジョータが下から顔面を蹴ってカウント8のダウンを奪ったのを皮切りに、シャイニングハイキックでカウント9のダウンを、そしてハイキックでカウント9のダウンを奪った。これに対してジョータが奪われたのは、エアプレーンスピンからドロップキックを受けてのカウント8のダウン1回きり。数字だけを見ればロープエスケープは矢野2回、ジョータ1回。ダウンは矢野3回、ジョータ1回と、明らかにジョータの方が優勢だ。

 だが、勝利の女神は最終的に矢野に微笑んだ。ハイキック2連発からWARスペシャルにつないだジョータだったが、これでは決まらないと見るや自ら技をほどき、ヒザ立ちの状態の矢野の後頭部に強烈なキックを決めてダウンを奪った。だが、カウントが数えられるのを待たずに、カウント1の時点で矢野に馬乗りになって拳を振り下ろし、止めを刺そうと攻撃をたたみかけたのだが、矢野が下から絡みついて体勢を入れ替えカールシックルを極め、これでもかと思いきり体を反らした瞬間、ジョータはたまらずタップ。11分27秒、激闘に終止符が打たれ、22歳の若き二冠王者がここに誕生したのである。CAPTURE INTERNATIONAL CHAMPIONのベルトを渡された矢野は、何を思ったかベルトを抱きしめたまま、リングサイドそばの客席のテーブルに飛び乗ってベルトに祝福のキスをし、会場の雰囲気を一気に自らに引き寄せた。ある意味、ナルシシズムにも映る行為だが、これが時代を引き寄せた王者としての美意識なのであろう。

 二冠王者がリングを去った後、IVANOV ROGOVSKI Jr.指名演舞人のIshtaria(イシュタリア)が登場し、地下の戦士たちへ捧げる鎮魂の舞を踊った。実はあまり知られてない事実だが、“Ishtaria”とは「戦いと豊潤の女神」を意味する名前である。はたして矢野に微笑んだ勝利の女神が彼女たちだったのかどうかは、あくまで謎のままだ。そしてそれは若き二冠王者・矢野啓太がリングに残した、最後の謎かけでもある。二本のベルトを駆使し、矢野啓太は2011年も地下のリングを縦横無尽に駆け巡る。
(印束義則)

地下プロレス『EXIT』公式サイト
http://www7.plala.or.jp/EXIT/
梶原劇画で伝承された「地下プロレス」が、この日本に存在した! 闇の闘いを伝える『EXIT』とは何か!?
http://npn.co.jp/article/detail/97320773/

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