名古屋場所がいよいよ名古屋市のドルフィンズアリーナで始まるが、何と言っても一番の注目は新大関の栃ノ心(30)だ。
果たして、15日制になって6人目の新大関優勝はなるか。連日、稽古場でも名古屋っ子たちの熱い視線を集めているが、「この栃ノ心にあやかれ、後を追え」と悲壮な決意をにじませている力士がいる。
栃ノ心と言えば、5年前のこの名古屋場所で右ひざに大ケガを負い、4場所連続休場して西幕下55枚目まで降下した苦い経験を持っている。
この時、師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)に、「辞めようなんて、バカなことを考えているんじゃなかろうな。あと10年、取らなくちゃダメだ」と尻を叩かれて発奮。
「あのケガがあったから、今日がある。大関昇進はケガの功名だ」
後に栃ノ心は、そう振り返っている。
いま、この幕下まで落ちた栃ノ心と同じような境遇にいるのが、去年の秋場所まで大関だった照ノ富士(26)だ。3年前の稀勢の里戦で右ひざを痛めたのが、つまずきの始まり。最近は糖尿病や腎臓結石まで加わり、先場所は十両で1勝もできず、9敗6休だった。下半身がまったく動かず、およそ相撲にならなかったのだ。
これで給料も出ない幕下転落が決定した照ノ富士。
「誰も辞めるって言っていないよ」
千秋楽の支度部屋で、そう消え入るような声で現役続行を訴えていたが、過去、大関経験者で幕下の土俵に上がった者はいない。まだ26歳と若いだけに、おそらく辞めたくても辞められない心境なのだ。
そんな照ノ富士に非情な追い打ちが待ち受けていた。6月中旬の大阪・堺市合宿中のことだ。
「まず、ひざをしっかり治さないと再起できない」
師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)がそう判断し、6月中に思い切って手術することを表明したのだ。そうなると名古屋場所は全休となり、次の秋場所は栃ノ心と同じように幕下下位の転落が避けられなくなる。
「とにかくやれることは何でもやらないと。栃ノ心は幕下に落ちた時、27歳だった。また体さえ治れば十分復活できます」(部屋関係者)
そうした中、7月名古屋場所が始まるが、現状のままで谷町衆(たにまち)の期待を裏切ることはないのか。崖っぷちの照ノ富士は? 宇良は? 遠藤は? 高安は…、人気力士たちの動向が気になる。果たして「尾張名古屋は土俵でもつ」か?