「このスカウト会議は異例でした。編成部門のスタッフも同席させ、緒方孝市監督らが望む先発タイプの左投手を獲るか、獲らなければ来季の戦況にどれだけ影響を与えるのかが話し合われました。中村が地元出身でなければ、ここまでモメませんでした」(関係者)
広島は戦力の重複を嫌う。昨年指名した高卒捕手の坂倉将吾が打撃面でも急成長しているため、「中村回避」論は早くから伝えられていた。しかし将来のためにと、地元出身選手を選んだ。
「日本ハムも清宮との面談を欠席しましたが、1位は清宮か中村。日ハムが面談を回避したのは『その他大勢』にならないためでしょう」(スポーツ紙記者)
広島を除く11球団が清宮を1位入札するかといえば、そうとは言い切れない。“裏切る可能性”があるとしたら巨人のようだ。
今夏の甲子園大会後、清宮たちはU-18世界大会を戦うため、日本代表チームに招集された。開催地カナダへ渡る前の国内合宿で、千葉工業大学との練習試合を行ったときのことだ。この試合で清宮は新記録(当時)となる高校通算108号アーチを打ったが、安田尚憲内野手(履正社)も2本塁打を放っている。12球団スカウトは「規格外の高さ」を見せた清宮の飛球にその才能を再確認させられたが、巨人スカウト団だけは違う感想を持った。
「井上真二チーフスカウトが安田の立ち居振る舞いに、『松井に似ている』と報告したようです。守備力では『清宮より上』と早くから評されていましたが、『試合中の視野も広い』と。安田に惚れ込んだようです」(球界関係者)
安田の姿に、松井秀喜氏をオーバーラップさせていたのだ。右投左打、身長188センチの大型三塁手。巨人スカウト団もカナダ入りしたが、「清宮か、安田か?」の見方はしなかったそうだ。
「清宮、安田の両方にあてはまるんですが、性格が優しい。フォア・ザ・チームの姿勢、仲間を労う言動、どちらもチームリーダーになれる器です。ただ、今季の観客動員数を落とした巨人は、スカウトだけで1位を決められない。営業が推すのは清宮です」(同)
どの球団もそうだが、プロ野球は人気商売でもある。同じような理由で、清宮指名に行かなければならないのが、ヤクルト、西武、楽天、ロッテ。「尊敬する野球人は王貞治さん」と、事実上の逆指名を受けたソフトバンクにしても、指名を回避すれば、バッシングは覚悟しなければならない。
「指名する」と公言したのは、阪神と中日。ただし、「左の先発投手」を欲しているチームは広島だけではない。楽天、オリックスも同様で、JR東日本の好左腕・田嶋大樹、立命館大・東克樹、明治大・齊藤大将が注目されている。
「オリックスは指名での重複を強く嫌います。去年も単独指名狙いで柳裕也(現中日)に切り換えたのに失敗でした」(在阪記者)
ヤマハの最速157キロ投手・鈴木博志、抑えも務める日立製鉄所の鈴木康平、技巧派の岡山商大・近藤弘樹らの実力派右腕も1位候補だ。
DeNAは将来の正捕手候補を狙っている。中村指名で広島と張り合うか、強肩強打の村上宗隆(九州学院高)が1位リスト入りしたとされ、好右腕・西村天裕(NTT東日本)に対しては、「ロッテとDeNAが熱心」とのことだ。
昨年、阪神が即戦力投手を捨てて大山悠輔を一本釣りしたとき、ドラフト会場からは「えっ〜!?」という声が上がった。意表の1位があるとすれば、日ハムがU-18日本代表の左腕・田浦文丸(秀岳館)に行くときか、オリックス、楽天が俊足巧打の遊撃手・宮本丈(奈良学園大)に切り換えたときだろう。
「阪神は今年も捕手を指名します。1位は清宮。となれば、2位以下か外れ1位でU-18代表の古賀悠斗(福岡大大濠)でしょう」(前出・球界関係者)
阪神には“捕手コレクター”の異名がある。「育てられない現状」を見直したほうが得策だと思うが…。
また、清宮に1位指名が集中した場合、どの球団も「外れ1位」を用意しておかなければならない。その場合、独立リーグ徳島の150キロ右腕・伊藤翔が1位指名されるかもしれない。昨年も指名候補だったが、声は掛からず、1年目から指名対象になれる独立リーグに進み、150キロ台の直球はさらに速くなった。スライダーとフォークも進化させ、巨人、阪神、広島、ロッテ、DeNAは地団駄を踏みながら見ていたそうだ。
「日ハムが中村を指名した場合、大野奨太のFA退団は確実。正捕手不在の中日が獲得に乗り出すのは必至で、森繁和監督はこちらにも注視しています」(同)
巨人の“清宮裏切り説”もそうだが、12球団はFAやトレードをリンクさせて、10月26日のドラフト会議本番に臨むようだ。