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読切小説 『女の世界』

 マクドナルドでトイレに入った。そこで、奇妙なものを発見した。

 それは、正方形の物体だった。便座に腰掛けて、すぐ手の届く壁に備えつけられていた。正方形の物体は、表面が透明な板が覆われていた。

 爪で軽くたたいてみた。コツ、コツと、硬い感触がした。透明な板は、ガラスのようだった。

 ガラスの中央が、丸く沈んで見える。センサーか何かがあるのかもしれない。よく見ると、丸い中に、小さな文字で、「TOUCH」と記されている。
 このような物体を見るのは初めてだ。

 「TOUCH」と記され場所を触ってみた。水が流れた。ただそれだけだ。

 釈然としない気持ちで下を見ると、水は流れていない。
 おかしい。

 確かに、今、ボタンを押して、水が流れたはずである。
 もう一度、触ってみた。また、水が流れた。

 今度こそはと思い、下を見た。水は流れていなかった。
 おかしい。

 個室の中にある水回りは、座っている場所と、背中にある瀬戸物のタンクだけである。タンクのふたを開けてみた。水はたまったままになっていて、流れ出した気配もなかった。

 おかしい。水は、どこかで流れているはずだ。現に、今も、水が流れる音がしている。

 心を静め、便座に座り直した。全神経を研ぎ澄ませた。
 水が流れる音は、壁の「TOUCH」と記された物体から発せられていた。

 すぐに、真意を悟った。

 この物体は、触ると水が流れる音がするので、そのすきに、思う存分に用を足せという装置なのだ。疑問が解消されてほっとした。

 用を済ませ、トイレの個室から出ると、目の前に女子高校生が立っていた。
 私を見て驚いている。
 もしやと思い確認したら、女子トイレだった。
 しまった。
 逃げるようにして、マクドナルドを出た。

 私は、今、街を歩いている。
 すでに、マクドナルドがある通りを抜けた。ここまで来れば、女子高校生にツイッターでつぶやかれても、大丈夫だろう。

 それにしても、ふとしたことで垣間見た女子トイレには、男子トイレにはありえない機能が備えつけられていた。

 同様に、女子更衣室や女風呂にも、私たちが想像もつかないような設備が整えられているのかもしれない。
 今度、まちがえたふりをして、入ってみるのも悪くはない。

 だが、そのときは、逮捕されるのだろうか。

(文・竹内みちまろ/イラスト・出浦 宗)

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