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連載ラノベ 夢ごこち(6)

 吉原君は、「キスしていい」って聞いてきたきり、黙っている。

 吉原君、どんな顔をしているのだろう。
 吉原君は、うつむいていた。吉原君は、私の返事を待ってくれているんだ。吉原君のことだから、私が何も答えなかったら、たぶん、ずっとこのまま。
 やっぱり、吉原君は、いいかげんな人たちとは違う。私のことを、ちゃんと気づかってくれる。
 私も、キスしてほしい。

 「いいよ」

 吉原君、まじめな表情のままだ。
 けど、私の腕に、手を添えた。
 どうしよう、私、今、男の子に、体をさわられている。
 半袖がめくれてしまいそう。
 吉原君、真剣だ。

 「顔、上げて」

 今度は、ほほの下、あごの辺りに、吉原君が手を添えた。吉原君の小指が、胸もとに触れちゃう。
 でも、吉原君の手のひら、温かい。これが、男の子の体。
 吉原君が、耳にからまっている私の髪の毛を、後ろに流してくれた。
 吉原君、なんだか、年上の人みたい。こういうとき、どうすればよいのかを、知っている感じ。

 「ねえ、目を閉じて」

 うん。
 目を閉じるとき、吉原君の後ろで、風がふいた。
 初めてのキスは、一瞬で終わってしまった。
 吉原君は、手をだらんと下げたまま、私の靴を見ている。
 吉原君が、つぶやいた。

 「ごめんね」

 えっ、なんで、あやまるの。

 「なんで」
 「なんか、無理矢理、しちゃったみたいで」

 そんなことないよ。

 でも、そんなことないのに、なんて説明すればよいのかわからない。
 下を向いてしまった。
 吉原君の息づかいが聞こえる。

 「帰ろっか」

 吉原君、きっと、誤解をしている。私、キスされて、うれしかったのに。
 けど、どうすればよいのか、わからない。
 うつむいたまま、返事をした。

 「うん」

 帰り道は、手をつないでくれるかなと思ったけど、吉原君は、無言のまま、私の前を歩いた。時々、振り返って、「大丈夫」って聞いてくれた。私はそのたびに、下を向いたまま、うなずいた。

 私は大丈夫だし、吉原君のこと、好きだよ。
 ただ、今日は、体調が悪かっただけだから。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・EZU&夜野青)

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