表(※本誌参照)を見ていただければ分かる通り、今年度の日本人大リーガーで年俸以上の働きをしたのはダルビッシュ有だけである。これまで日本人選手の働きが最も悪かったのは故障者が続出した'15年シーズンだが、この年はダルビッシュがトミージョン手術でフルシーズンDL入りしたことが響き、日本人選手全体の年俸総額が6075万ドル(66.8億円)であるのに対し、実働評価額(実際の働きを金額換算した数字)はその半分の3160万ドル(34.8億円)にとどまった。
今年はこれよりさらにひどく、日本人選手全体の年俸総額7415万ドル(81.6億円)に対し、実働評価額は2760万ドル(30.4億円)しかなく、年俸総額の36.5%の働きしかできなかった。
このような惨状を呈した主な原因は、
(1)田中将大が深刻な一発病に陥った。
(2)毎年安定した成績を出していた岩隈久志が肩の故障で5月上旬から長期欠場。
(3)イチローと上原浩治の年齢的な衰えが顕著になった。
などが挙げられる。
■MVP=ダルビッシュ有(レンジャーズ→ドジャース)
例年通りなら候補者を3人ほど挙げて、比較検討してから受賞者を決めるところだが、今季は評価基準である「年俸以上の働き」をした日本人選手はダルビッシュしかいない。超高額年俸の選手はかなりいい成績を出しても年俸を上回ることが困難なので、これまでは実働評価額が多少年俸を下回る選手でも、印象に残る活躍をした選手を候補に挙げることもあったが、今季はそれすらもいない。
ダルビッシュ以外で一番まともな働きをした前田健太でさえ、実働評価額は年俸(出来高部分を含む)の55%程度だ。これでは候補に挙げるわけにはいかない。
ダルビッシュは勝ち星が10しか付かなかったが、これは今季7月末まで在籍したレンジャーズで極端に勝ち運に恵まれなかったからだ。レ軍ではQS(クオリティー・スタート=6回以上を自責点3以内)が14回あったので、平均レベルの得点援護があれば7月末までに10勝くらいしていたはずだ。しかし、好投しても打線が沈黙して勝ちが付かなかったり、リリーフ陣が弱体で勝ち星を消されたりしたため、勝ち星がなかなか付かなかったのだ。
■敢闘賞=青木宣親(アストロズ→ブルージェイズ→メッツ)
青木宣親は守備面での評価が低いため実働評価額が年俸の4割程度になってしまった。しかし、打撃面、走塁面だけ見れば年俸レベルの働きをしていた。
何よりも立派なのは、35歳というメジャーリーグの「リストラ年齢」になりながら、人材ひしめく強豪アストロズで準レギュラー級の出場機会を確保し、日米通算2000本安打を達成したことだ。
アストロズでは若手が台頭していたため8月以降はブルージェイズ、メッツと渡り歩いたが、移籍先でもしっかり数字を出してスタメン出場していたことも大いに評価されるべきだ。松井秀喜、松井稼頭央、井口資仁、岩村明憲、福留孝介といったメジャーでレギュラーを張った野手たちも、メジャー最終年は低レベルの数字しか出せなくなり、途中でクビになったり、出場機会がほとんどなくなったりした。
青木のように、最後までスタメンで出場したケースはこれまでなかったことで、その踏ん張りは、もっと称賛されてしかるべきだ。
■LVP=田中将大(ヤンキース)
(他候補=岩隈久志・マリナーズ、田澤純一・マーリンズ)
今シーズン、もっとも年俸に見合った働きができなかった選手を挙げるとすれば、田中将大と岩隈久志を挙げねばならない。
表にあるように、田中は年俸2200万ドル(24.2億円)なのに、実働評価額は740万ドル(8.1億円)で、1480万ドル(16.3億円)が死に金になった。同様に岩隈も年俸1400万ドル(15.4億円)に対し実働評価額は20万ドルにとどまった。
一方、貢献ポイントであるWARが最も低かったのは田澤純一で、年俸500万ドル(5.5億円)をとる身でありながら、チームの足を引っ張ってしまった。
この3人のうち、岩隈と田澤の不振の原因は、肩の故障である。それに対し、田中はどこも悪くないのに深刻な一発病になり、エースでありながらチームの足を引っ張り続けた。今季、ヤンキースはア・リーグ東地区2位で、ワイルドカードで何とかポストシーズン進出を果たしたが、田中がまともに機能していれば、楽々東地区で優勝していたはずだ。それだけ田中の不甲斐なさは際立っていた。
以上の理由で、今季、最も期待を裏切った選手の汚名は、田中将大が負うべきである。
スポーツジャーナリスト・友成那智(ともなり・なち)
今はなきPLAYBOY日本版のスポーツ担当として、日本で活躍する元大リーガーらと交流。アメリカ野球に造詣が深く、現在は大リーグ関連の記事を各媒体に寄稿。日本人大リーガーにも愛読者が多い「メジャーリーグ選手名鑑2017」(廣済堂出版)が発売中。