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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第138回 川内原発の再稼働

 8月11日。九州電力は川内原子力発電所1号機を再稼働させた。同日の午後11時には、核燃料が一定の熱を出し続ける、いわゆる「臨界状態」に達した。九州電力は8月14日から発電と送電を開始し、8月25日に出力100%の運転に移行する予定となっている。

 2013年9月に関西電力の大飯原発4号機が停止して以来、国内では1年11カ月ぶりに原子力発電所が発電を開始することになった。もっとも、日本のエネルギー環境の「正常化」という観点から見ると、100メートル走の第一歩にすぎない。
 今後、四国電力の伊方原発が再稼働に向かうだろうが、関電の高浜原発は、原子力規制委員会の審査をクリアしているにもかかわらず、例の福井地裁による再稼働差し止めの仮処分により、再稼働できない。
 さらに、川内原発、伊方原発、高浜原発と、全てPWR(加圧水型原子炉)になる。PWR型は、今後、規制委員会の審査をクリアしていくと思うが、需要が多い東京電力や中部電力はBWR(沸騰水型原子炉)である。BWRについては、今のところ一基も再稼働のめどすら付かない状況だ。

 ちなみに、筆者は別にイデオロギー的な“原発推進派”とやらではない。いわゆる“脱原発”を果たしても、わが国のエネルギー安全保障が維持・強化されるならば、別に原発を動かさなくても構わない。
 目的はあくまで「電力の安定供給」「エネルギー安全保障確立」であり、原発稼働そのものではないのだ。当たり前である。
 とはいえ、現実に“脱原発”を実現したいならば、
 「代替エネルギーや蓄電技術への投資」
 「使用済み核燃料の再処理や地層処分への投資」
 「廃炉技術確立のための投資」
 等々、莫大な資金を“技術開発”に投じる必要がある。技術開発投資なしでは、脱原発など実現できるはずがない。

 それでは、誰が脱原発のための技術開発におカネを投じるべきだろうか。もちろん、電力会社である。
 ところが、電力会社は原発を停止しているため、資金的な余力がない。何しろ、原発一基稼働させるだけで、約900億円の収支改善効果があるのだ。
 さらに、原発を再稼働しないため、わが国の国民が稼いだ「所得」が、LNGや原油購入代金として外国に流出している。つまりは、貿易赤字の拡大だ。貿易赤字が拡大すると、GDP上の純輸出が減る(もしくは純輸入が増える)というわけで、国民経済的には需要縮小効果になる。すなわち、デフレを深刻化の方向に導いてしまう。

 また、電気料金の上昇は、家計の消費や企業の投資にマイナスの影響を与える。
 しかも、電力会社は原発を再稼働しない状況で“利益”を出すことを求められ、東電などは送電線網のメンテナンスコストを削減し、無理やり黒字決算にしている。インフラのメンテナンス費用を削ると将来的に何が起きるのか、今さら書くまでもない。
 というわけで、現時点では原子力発電所を再稼働し、電力会社に余力を生み出し、インフラの強化や各種の技術開発投資におカネを投じてもらい、同時に所得の外国への流出を食い止め、消費者(家計・企業)の負担を減らし、同じく「投資」におカネを投じることが可能な環境を作る必要があるのだ。

 問題は、反原発派や脱原発派から、上記の「(脱原発のための)投資」の話が全く聞こえてこない点である。出てくるのは、「太陽光発電の普及・節電定着…猛暑でも電力にゆとり(朝日新聞、2015年8月8日)」など、太陽光発電が原子力発電を代替しているかのごとき“印象”を与える、プロパガンダ記事ばかりだ。
 直近のデータ(2015年5月)を見ると、太陽光による発電実績は32億2194万キロワット時。それに対し、総発電実績は704億2313.7万キロワット時。太陽光発電の実績が全体に占める割合は4.5%。原子力発電は、東日本大震災前は日本の電力の約3割を担っていた。太陽光発電が普及したとはいえ、原発分をカバーできているわけではないというのが現実なのだ。
 それでは、なぜ原発を動かしていないにもかかわらず、日本の電力サービスは需要を満たしているのだろうか。理由は、耐用年数を超えた老朽化火力発電所が動いているためだ。日本の電力マンたちが、取り壊し直前だった老体の火力発電を何とか稼働させ、ようやくわが国の電力供給は需要を満たしているのである。

 しつこいが、筆者はイデオロギー的に上記の類のことを書いているわけではない。理性的、論理的に“代替策”を主張できるならば、ぜひとも議論するべきだ。
 エネルギー安全保障に限らず、安全保障関連の問題を感情的に解決しようとすると、将来に禍根を残す。世論調査では、原発再稼働については「反対」が「賛成」を上回っている状況だ。もちろん、世論調査に従って政府にエネルギー安全保障関連の決断をされた日には、最終的には国民が悲惨なことになるケースも出てくる。
 いずれにせよ、わが国のエネルギー政策が「正常化」したとは、とても言えない状況なのだ。将来にわたり、わが国のエネルギー安全保障を維持するために、感情的ではなく、理性的、論理的な議論が求められているのである。

三橋貴明(経済評論家・作家)
みつはし たかあき。1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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