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センバツ特集(1) プロ野球スカウトの嘆き「右のホームランバッターがいない!」

 「最近、増えたなあ…」
 ネット裏に陣取っていたプロ野球スカウト陣が驚いていた。21日、『第82回選抜高校野球大会』(以下センバツ)が開幕した。スカウト陣が首を傾げたのは『右投げ左打ち』のバッターが急増したことについてだ。言われてみれば、その通りである。同日の3試合6チームのなかで、左打者は計34人。同日の総打者数は68人だから、半分が『左打者』だったわけだ。第3試合に登場した山形中央に至っては、1番から5番までが左打者が並んでいた。同日の34人の左打者のうち、『左投げ』は数人程度であり、左打者の3人中2人が『右投げ左打ち』という計算になる。
 『右投げ左打ち』の急増は、偶然ではない。昨夏、神奈川県代表の座を勝ち取った横浜隼人は『左打者急増』のチーム事情から、『対左投手』の打撃ゲージを設けている。東都リーグ・中央大学もセレクション受験者の半数以上が『右投げ左打ち』で、こうした“偏重ぶり”は3年以上連続しているという。

 在京球団スカウトが「必ずしも悪いことではない」と前置きしたうえで、こう言う。
 「だいたい、『右投げ左打ち』ってのはイチローみたいに足が速いとか、松井秀のように本塁打を量産するタイプなんです。そういう特徴のない『右投げ左打ち』は…」
 『右投げ左打ち』の高校球児に確認したわけではないが、左打ちになった理由を質問したら、「子供のころから」と答えるだろう。実際、何校かの監督に「右投げ左打ちが増えたこと」について質問してみたが、「入学した当初からそうだった」と話していた。
 「よほどの素質があるのなら右打ち転向を指示するが、そこまでは…」(関東圏の高校監督)
 小・中学生の硬式野球組織の指導者にも同様の質問をしてみた。しかし、答えは変わらなかった。「最初から左打ちだった」−−。中日、巨人で活躍した元プロ野球投手・野口茂樹氏は左利きだが、箸、鉛筆等は「右」だ。幼少期にマナーで覚えさせられたとも語っていたが、最近では右使いを強要する家庭は少なくなってきた。しかし、『右投げ左打ち』が急増した理由はそうではないだろう。

 「ピッチャーのストレートに力負けしてしまう子が多いんです。だから、利き腕(右手)がバットの軸手となるよう、下の方に持ち換える子供が増えてきました。右打席で力負けしても左打席では打てるという子供も少なくない」
 小学生の硬式野球指導者の私見だ。
 「力負けしてしまう」とは、「対戦投手の直球を弾き返すことが出来ない」という意味。そのため、利き腕が軸手になる左打ちに活路を見出す。1つの仮説としては説得力もあるが、『右投げ左打ち』の急増は、右打者の激減も意味する。
 「星野ジャパン(北京五輪)のときは、阪神の新井が4番。第2回WBCは横浜の村田が4番を務めました。日本人の長距離バッターも少なくなっており、4番を任せられる右打者は数える程度しかいません。プロ野球界全体として欲しているのが右の長距離タイプであり、国際試合の選手招集の際、右の好打者が少なくなってきたことも問題視されています」(前出・スカウトマン)
 プロ野球12球団が毎年のように『左投手』をドラフト指名するのは、どの対戦チームにも必ず左打ちの好打者がいるからである。

 『力負け』と言えば、第2回WBCでは侍ジャパンの精鋭たちは連覇こそ収めたが、次大会への課題も残した。もっとも苦しんだ対戦投手の球種はカーブでもなければ、フォークボールでもなかった。直球である。『力負け』についてはプロアマを問わず、検討しなければならない課題のようだ。

 また、甲子園のネット裏ではメジャー球団のスカウトの姿も見掛けるようになった。昨年の菊池雄星投手を巡る日米の争奪戦が思い出されるが、彼らはクールな口調でこう語っていた。
 「ワタシたちが見極めるポイントの1つに、天然物か、養殖物かがあります。技術的にはこれからの選手でも天性のパワーを秘めたスラッガーや、多少粗削りでもスピンの掛かった直球を投げるピッチャーが欲しい。日本の高校生は技術面で優れているので、それを見抜くのは非常に難しい」
 養殖。高校野球ファンとしては面白くない表現だが、WBCを連覇した勝因は「個々のプレーの堅実さ」でもある。それは、高校野球組織によって培われたと言っていいだろう。
 甲子園はプロ野球の近未来像も予見させる大会である。日本のプロ野球界は、バットコントロールに長けた左打者の偏重がさらに加速するのではないだろうか。(スポーツライター・美山和也)

訂正:21日の「第3試合に登場した山形日大」とありましたが「第3試合に登場した山形中央」の間違えです、修正してお詫びいたします。

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