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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

◎悦楽の1冊
『漂流怪人・きだみのる』 嵐山光三郎 小学館文庫 610円(本体価格)

★怪人の行状に隠された謎とは

 並べて冷静に見れば違いは明白なのに、なぜか紛らわしい名前は多い。阿藤快と加藤あい、倖田來未と江沢民、作家で例えれば隆慶一郎と峰隆一郎で、この場合どちらも時代小説の書き手なだけになお余計で、同様にと申しては甚だ恐縮乍ら長らく「きだみのる」と「なだいなだ」を混同すること久しかった。全然別人だろ! とお叱りを受けようが、平仮名の筆名同士なのに加え、前者の代表作が映画化もされた『気違い部落周游紀行』なのに対して、精神科医である後者にも『くるいきちがい考』という著書があるだけにややこしい。

 しかし、本書を一読し俄然認識を改めた。いやはやとんだ暴走老人((c)石原慎太郎)の先達がいたもので、ファーブル『昆虫記』の翻訳者にしてパリ大学でマルセル・モースに人類学の手ほどきを受けた(ということは岡本太郎の先輩か)きだみのるは反骨、気骨、土性骨すべてが備わった生粋骨がらみの自由主義者にして大酒飲みの健啖家な上、野性の料理上手(イラストつきでレシピが紹介されるが、どれも実に旨そう)。「人間は宴会をするために生きている」とうそぶき、女性にも旺盛で、還暦をすぎて人妻に産ませた7歳の少女を連れて愛車で全国を流浪しつつ執筆に励む。

 著者が平凡社の編集者だった28歳での出会いの記憶を導火線に、無限の屈託を抱えた怪物的知識人の肖像が鮮烈に浮かび上がる。60年代を彩る綺羅星のごときスーパースター達との邂逅を描いた『口笛の歌が聴こえる』や、『楢山節考』の作家深沢七郎との身を削る修行のような交流の日々を綴る『桃仙人』に連なる嵐山氏一流の傑作回想劇だ。

 この世で最も面白い職業は編集者なのではないかと思わせる、対象への敬意と愛情にあふれた感動の1冊。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 渋沢栄一は明治初期の日本の偉人の1人だが、名前を聞いてもピンと来る方はさほど多くはないかもしれない。だが、元号が令和に入った今年4月、20年ぶりに刷新される1万円札に肖像画が使用されることが決定し、にわかに注目を集めている。

 その渋沢の生涯をたどった本が『日本の資本主義を作った男 渋沢栄一』(宝島社/1200円+税)だ。

 生まれは天保11年(1840年)。黒船来航(嘉永6年/1853年)の13年前だから、幕末と明治維新を生きた人。

 出身地は武蔵国(現在の埼玉県)で、生家は藍玉(藍染に使い材料)の製造販売と養蚕を営む豪農だった。武士ではない。

 だが、家が裕福だった関係で剣術を学ぶことができ、また商業の才覚もあったため、幕府15代将軍・徳川慶喜に見出され出世。明治維新の折りには海外へ留学中で、戊辰戦争に巻き込まれることもなかった。

 明治に入ると実業家に転身し、銀行や企業を続々と設立する。渋沢が創設に関わった会社は現在のみずほ銀行、東京海上火災保険、電鉄会社の東急、キリン、サッポロなどのビールメーカー。東京証券取引所の設立にも携わった。「資本主義の父」と言われるゆえんだ。

 多くの英傑が活躍した幕末・維新の時代にあっては地味な存在だが、本書は大衆の立場から日本の基礎を作った男の高い志が凝縮された1冊としてオススメだ。ちなみに渋沢の顔が印刷された新紙幣は、令和5年上半期に登場する予定。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 林眞須美死刑囚長男
もう逃げない。いままで黙っていた「家族」のこと ビジネス社 1,500円(本体価格)

★毒物を混入させる機会も_動機も思い当たらない

――カレー事件から20年以上が経ちます。なぜ、今、家族のことを語ろうと思ったのですか?
長男 過去にもメディア上で、家族や事件のことを話してきました。ところが、僕のつらい人生経験だけが取り上げられ、事件の疑問点や家族のこと、母の訴えなどは全く取り上げられません。揚げ句、ネット上では「被害者面するな!」といった批判を受けます。そこで、ツイッターを始めて直接自分の考えを訴えるとともに、事件や母、家族への思いをまとめるため、本を出すことにしたのです。

――犯人の家族が“迫害”を受けるケースが社会問題になっています。どのように思いますか?
長男 2009年に起きた「秋葉原通り魔事件」の犯人の弟さんが自殺された一件が衝撃的でした。事件の内容、質は違いますが、年齢的にも近く、兄のせいで僕と同じように大変な人生を歩んできたわけです。自殺を知った時は他人事とは思えず、ひどく落ち込みました。加害者家族の大変さや苦しみを受け入れる余地は、今の社会にないのだなと…。

――婚約者の父親に“林眞須美死刑囚の長男”ということを告白してしまいますね。なぜでしょうか?
長男 相手方のご両親は、僕のことを誠心誠意、受け入れようとしてくれました。そのため、自分の出自について嘘をついていることに対し、常に罪悪感があったのです。しかも、「将来は家も土地も君のものにしていい」とまで言っていただき、母のことを話さざるを得ないという思いに駆り立てられました。もちろん「それでも受け入れてもらえるのでは?」という淡い期待もありましたが、結果として“婚約破棄”となりました。でも“正体”を明かしたことについては、今でも悔いはありません。

――母親の事件の“関与”については、どのように考えていますか?
長男 まず言いたいのは、11歳まで一緒にすごしてきた“凶悪犯”と言われている母の印象に、自分としては大きな違いがあるということ。当日の母の様子を間近で見ていましたが、毒物を混入させる機会も動機も思い当たりません。実際、裁判の過程で僕や姉妹はそう証言してきましたが、一切取り上げられず、動機や物証、自白がないまま死刑判決が下されたことは、到底納得できるものではありません。今後は再審請求が認められる日が来るまで、できる限り事件や母について発信を続けていきたいと考えています。そして、いつか事件の真実が明らかになり、区切りを迎える日が来ることを願っています。
_(聞き手/程原ケン)

林眞須美死刑囚長男
1987年和歌山市生まれ。’98年7月に発生した「和歌山毒物混入カレー事件」の“犯人”として逮捕された林眞須美死刑囚の長男。現在は会社勤めをしながら、母の様子やカレー事件についての情報を発信している。9月29日、大阪のロフトプラスワンウエストにてトークイベントを開催。

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