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プロレス解体新書 ROUND68 〈三沢vs川田ラストマッチ〉 ノア東京ドーム大会で運命の激突

 2005年、プロレスリング・ノアの2度目となる東京ドーム大会のメインイベント。ノアの顔である三沢光晴は、高校時代からの後輩で5年前に袂を分かった川田利明を迎え撃った。
 最高の舞台に最高の相手、最高のクライマックスとなるはずだったが…。

 高校時代の先輩と後輩が紆余曲折を経て、ついに東京ドームのリング上で対峙する――。
 映画や漫画なら「リアリティーがない」と観客や読者からソッポを向かれそうなストーリーだが、それを現実に成し遂げたのが三沢光晴と川田利明であった。
 同級生と先輩、後輩の違いはあるが、野球でいえば桑田真澄と清原和博の“KK対決”のようなものか。
 ただし、プロレスのドーム大会ともなれば、失敗が即、団体運営の危機ともなりかねないだけに、メインイベンターの重責はプロ野球選手以上とも言えよう。

 プロレスというジャンルは、アングルひとつで一夜にしてスターを作り出すことも可能であるが、現実に大観衆を集められるまでになるには、相応の努力と生まれ持った才能が求められる。その点では、他のスポーツやエンタメ業界と違わないのだ。
 「しかも三沢vs川田のカードは2度、それも全日本プロレスとノアという別々の団体で、東京ドーム大会のメインを任されたわけですからね」(プロレス記者)

 ドーム大会における同一カードによる2度以上のメインとなると、PRIDEの高田延彦vsヒクソン・グレイシーや新日本プロレスの棚橋弘至vs中邑真輔、棚橋vsオカダカズチカなどもある。が、三沢vs川田はそれら団体よりもドーム開催の回数自体が格段に少ない、全日とノアでメインを張っているのである。
 「そこに至る経緯のドラマチックさからして、2人のドキュメンタリー番組や実録小説が創作されても何ら不思議はない」(同)

 ただ、実際には三沢の名勝負という場合、川田ではなく小橋建太戦を挙げるファンは多い。
 「技と力のぶつかり合いという単純明快な小橋の試合に比べ、三沢と川田の絡みはどこか難しいところがありますからね」(同)

 確かに2人の関係性からして、いまひとつ理解に苦しむところは多い。三沢が全日から独立してノアを立ち上げた際、後輩である川田は真っ先にこれに続いてもよさそうなのに、そうしなかったことで2人は不仲と言われたりもする。
 三沢は川田について自伝などで〈好きか嫌いかといえば嫌いだね〉と述べているが、しかし、心底から嫌いであったならば一切触れもしないだろう。
 一方の川田は、三沢の葬儀で人目もはばからず号泣する姿が目撃されている。
 また、三沢の追悼大会へ参戦して以降、半引退状態となったことについて「三沢さんのいないリングに上がることへの意義が見出せない」と話している。ただし三沢の存命時には、そうした敬意のようなものを表に出すことはなかった。

 そんな2人の微妙な距離感は、試合内容にも反映されていた。'93年7月29日、王者の三沢に川田が挑戦した三冠戦。
 三沢は、急角度の投げっぱなしジャーマン3連発で失神させた川田を、さらに抱き起こしてタイガースープレックスで勝利した後、「川田は中途半端にやると、中途半端なことを言い出すから」と話している。
 だが、それを聞いてもなお、少し前までタッグパートナーだった後輩をそこまで非情に叩き潰すことの真意は、他人には理解し難い。テレビ解説をしていた御大ジャイアント馬場も、「高度な展開すぎて俺には分からない」と話したほどであった。
 '98年、全日による初の東京ドーム大会で三沢に勝利した川田が、普段の無口なキャラクターを捨てて「プロレス人生で一番幸せです、今が」と感情を爆発させたのも、やはり相手が三沢だったからこそであろう。

 '00年の全日分裂から5年後、ノア2度目となる東京ドーム大会で、そんな2人が再び対峙した。大会開催までの社長業との兼務ゆえか、コンディションの悪さから技のミスも目立った三沢だが、そこは気力でカバーしていく。
 顔面キックに花道での投げ捨てパワーボムと、容赦ない攻めを繰り出す川田にエルボーで対抗。
 切り札のエメラルド・フロウジョンもタイガー・ドライバー'91も返されて、あとがなくなってもなおエルボーを連打。最後もランニング・エルボーを顔面に叩き込んで勝利の凱歌を上げたのだった。

 しかし、試合後に川田がマイクを握り、「今日、打つはずの終止符が打てなくなりました」と継続参戦を匂わせると、その一方的な発言に対してノア経営陣は「川田をノアのマットに上げることは二度とない」と激怒。
 一方の川田も、「この5年間やってきたことが台なしになった」と記念すべき一戦にふさわしくない、ネガティブかつ意味深なコメントを残したのだった。
 単なる有終の美とならないあたり、この2人の関係性はやはり余人には理解し難いのである。

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