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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第245回 枠組みの問題

 2017年10月22日、第48回総選挙が投開票された。今回の総選挙は、民進党の(事実上の)解党、希望の党と立憲民主党の発足など、様々な「政局」的な動きがあったものの、結局は「既存の枠組みにおける組み換え」にすぎないことを理解しなければならない。

 例えば、希望の党の公約であるが、消費税増税凍結はともかく、「議員定数・議員報酬の削減」「特区を活用した抜本的な規制改革」「道州制導入」「ベーシック・インカム」など、'97年以降の日本を弱体化させた構造改革のオンパレードであり、かつ「日本維新の会」の政策に酷似していた。要するに、希望の党は大阪を拠点とする日本維新の会の東京都版にすぎなかったのだ。実際、選挙戦において維新の会と希望の党が選挙協力をしたわけだが、公約が似通っている以上、納得できる。
 さらに、立憲民主党に至っては、旧民主党から続く「保守的」とされるグループを切り離したにすぎない。無論、立憲民主党は希望の党から切り離された政治家が結成した党だが、元々、綱領一つ作ることができないほどに「サラダボウル」化していた民進党が、左右に分離したと捉えることもできるのだ。

 新聞各社によると、今回の総選挙は「与党(自民党・公明党)」「希望・維新」「立憲民主・共産」の三勢力による争いだったとのことである。中野剛志氏(評論家)が作成した政治経済マトリクスで分類すると、今回の勢力争いが「既存の枠組み」から全くはみ出していないことが分かる。
 現在の先進国では、フランスの歴史学者エマニュエル・トッドの言う「グローバル化疲れ」により、「保守的な反グローバル化」路線が支持を得るようになっている。結果的に、「保守的な反グローバル化」路線が完全勝利を得ることはなかったとしても、主流派(大抵は保守的なグローバル化路線)に影響を与え始めているのだ。

 例えば、'17年9月24日のドイツ総選挙。大方の予想を裏切り、国内では「ナチス」扱いをされているAfD(ドイツのための選択肢)が躍進。メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU、右寄りグローバリスト)は、CDU・CSUと連立を組む社民党(SPD、左寄りグローバリスト)と共に議席数を減らした。AfDは94議席を獲得し、一気にドイツ連邦議会の「第三党」に躍り出たのだ。
 AfDの躍進を受け、かつては、
 「政治難民受け入れに上限はない!」
 などと大見えを切っていたメルケル政権も、難民制限を検討せざるを得なくなった。AfDは別にナチスでも何でもなく(移民政策も筆者に言わせれば「穏当」だ)、代表的な「保守的な反グローバル化」政党である。

 また、'17年10月15日、オーストリア総選挙(下院選挙)の投開票では、中道右派で31歳のクルツ党首が率いる国民党が31.4%を獲得し、第一党の座を確保した。同時に、国民党以上に「保守的な反グローバル化」色が強いオーストリア自由党が27.4%と躍進。
 オーストリア国民党は、実は'17年5月までは自由党に支持率で水を開けられていたのである。ところが、国民党は5月に、移民に対して厳しい姿勢を見せるクルツ外相を党首に据え、一気に「反移民」へ舵を切った。要するに、オランダのルッテ首相同様に、「保守的な反グローバル化」の色が濃い政党(オーストリア自由党)の政策に抱きついたわけだ。
 結果的に、
 「移民や難民が増えているのは問題だが、エキセントリックな自由党はちょっと…」
 という支持層、恐らくは元々は社民党支持だったのだろうが、有権者の多くが一気に国民党支持に変わったようである。

 また、10月21日に投開票されたチェコの総選挙では、EUやユーロの導入に反対の立場を掲げるANO2011が得票率29.7%(78議席)で勝利した。さらに、EU懐疑派の右派「市民民主党」が11.3%(25議席)で第二位。チェコの場合、図(※本誌参照)のマトリクスの右下が明確に「勝利」したのである。
 欧州だけではない。ニュージーランドでは'17年9月に総選挙が行われたのだが、首位の国民党、二位の労働党など、どの政党も過半数に達しなかった。結果的に、連立交渉が行われていたのだが、結局、労働党が移民や外資の規制を公約に掲げる「ニュージーランドファースト」と連立し、政権が発足することが決定。NZファーストは、言うまでもなくマトリクスの右下「保守的な反グローバル化」政党である。

 現在の先進国では、保守的な反グローバル化の政党が勝たなかったとしても、それなりの票や支持を獲得し、政治全体の影響を与え始めているのである。特に、オーストリアのように、既成政党が「保守的な反グローバル化」の政策を模倣する(=抱き着く)ことで、勝利を得ようとするパターンは、今後も増えてくるだろう。
 それに対し、我が国はいまだに主要政党がマトリクスの上半分(グローバル化)の象限で争い、反グローバル化勢力は安全保障を無視する「お花畑主義」のみという有様だ。つまりは、国家の安全保障強化と、国民中心の経済政策(経世済民)を求める有権者にとって、投票先が存在しない状況が続いている。
 さすがに北朝鮮がミサイルを飛ばしてくる状況である以上、総選挙で与党系が圧勝するのは当然である。とはいえ、安倍政権は典型的な「保守的なグローバル化」政権だ。移民受け入れ、農協改革、電力自由化に代表される、国民の安全保障や安定的な生活を破壊するグローバル化路線は、このまま継続されることになる。

 次回の総選挙は、少なくとも4年以内には実施される。それまでに、我が国に真っ当な「保守的な反グローバル化」な政党もしくは勢力が出現するのか。日本国の将来の繁栄は、その1点にかかっていると断言できる。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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