今回の景気後退は短期間の「ミニ不況」で終わるという見方をするエコノミストが多い。しかし、本当だろうか。私は、この景気後退は、かなり深刻なのではないかと考えている。
第一の理由は景気動向指数の一致指数が、この7カ月間一貫して、しかも大きく落ち込んでいることだ。景気動向指数は、3月の97.4をピークに、10月は90.6まで落ち込んでいる。これは、震災直後で景気が落ち込んでいた'11年5月とほぼ同じ水準だ。つまり、震災から緩やかに戻ってきた景気が、震災直後のところまで逆戻りしているということなのだ。
エコノミストが「ミニ不況」だと主張する根拠の一つは、10月の鉱工業生産指数が前月比でプラスに転じていることだ。景気動向指数は景気を反映する10系列の景気指標を合成して、国全体の景況感を明らかにしているが、最も重要な指標が鉱工業生産指数だ。だが、改善したといっても、前月比で1.6ポイントの改善に過ぎない。
むしろ、所定外労働時間や有効求人倍率という雇用指標が悪化していることの方が重要だ。労働市場が悪化すれば、勤労者の所得が落ち、消費が落ちていくからだ。また消費面では、耐久消費財出荷指数が、9月の79.0から10月は73.8と、5.2ポイントも悪化している。エコカー補助金の予算切れが主な原因だが、出荷が落ちれば、当然今後の生産は落ちていく。
国内だけでなく、輸出環境も大きく悪化している。10月の貿易統計によると、輸出は前年同月比▲6.5%で5カ月連続の減少となった。地域別輸出をみると、米国向けこそ前年同月比3.5%増だが、中国向けは▲11.6%で5カ月連続のマイナス、EU向けは▲20.1%で13カ月連続のマイナス。象徴的なのは、EU向け商品別輸出の船舶の欄に「全滅」と書かれていることだ。10月は一隻も売れなかったのだ。
物価はどうか。10月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年比変わらずとなった。一見、デフレが終結したようにみえるが、そうではない。ガソリンや電気代の上昇でデフレが覆い隠されているだけだ。食料(酒類を除く)およびエネルギーを除く総合指数は前年比0.55の低下とデフレが続いているのだ。
国内もだめ、海外もだめ。しかも、これだけ深刻な景気状況が、昨年度補正と今年度予算の合計で17兆円にもおよぶ莫大な復興予算が執行される中で起きている。17兆円というのは、単純計算でGDPを3%以上引き上げる金額だ。それだけの財政出動をしているにもかかわらず、景気が悪化しているのだから、復興予算がなければ、日本経済は坂道を転がり落ちるような恐慌に陥っていただろう。
消費税引き上げ法には、景気条項があり、景気が悪い状況の下では、消費税を引き上げられない。だから、政府には景気をよくみせかけようとする動機がある。これから冷静に景気指標をチェックしていく必要があるのだ。