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高橋四丁目の居酒屋万歩計(3)「平澤かまぼこ」(ひらさわかまぼこ、立ち飲み)

JR京浜東北線、東京メトロ南北線・王子駅から徒歩130歩
   
 王子といえば、いやがおうでも狐である。上方落語の「七度狐(ひちどぎつね)」の茫洋(ぼうよう)としたおかしみとは違って、江戸落語の「王子の狐」は人間に騙(だま)された狐の哀れみがあとをひいて、呵呵大笑(かかたいしょう)とはいかない。
 噺(はなし)はサゲに近づき、やりすぎを詫(わ)びにきた男が置いていった、手土産のぼた餅を食べたいとせがむ子狐に、酷(ひど)い目にあわされて人間不信に陥った母狐がいう。
 「あ、食べるんじゃない。馬の糞だよ」
 三遊亭円楽師匠の録音(80年10月31日)からだが、ライナーノーツには学校寄席でこの噺を演じると危惧(きぐ)には及ばず生徒に大好評。「地球上で一番悪いのは人間なんだということが子供でも理解できる」ことを教わったとか、普通なら狐が人間を化かすわけだからこれは「“逆さ落ち”の代表的な噺」なのだと、解説つきで稽古をつけてくれた柳枝師匠の思い出などを述懐している。
 なぜ自分の師匠に教わっていないのか。円楽師の師匠は名人円生で、天才は教師には向かない。

 化かす狐を騙(だま)す、その舞台となったのが料亭扇屋。いまも、噺に登場する名物卵焼きを商う。高低差のきつい石段を登りきると王子稲荷神社。位は高く、関東稲荷総司(かんとういなりそうつかさ)。迎えるも、狛犬ならぬ狛狐という念の入れよう。閑散とした境内は見渡せど人影もなく、早く親子連れが遊ぶ音無川親水公園に戻りたくなる。
 同じ駅前ながら一転して、人間かまぼこができそうな、このおしくら饅頭(まんじゅう)はなんだろう。「コの字」のカウンターの、内側に背を向けあう形で、大のおとなが密集しているから、身動きすればぎしぎしみしみしと背中が擦れ合う。あいにくトイレは、コの字の奥にあるのだ。男子校の運動会でさえ、いまは禁止されている種目の棒倒しのように、論理上、分け入ることなど絶対に不可能な体と体の間に分け入って、それでも人はトイレを目指すのだった。
 さすれば、ひたすら謝り続けるしかない。なかでいちばん笑いをとっていた謝罪は「デブですみません。デブですみません」の連呼だった。わたしである。体形の似ている方は、路上での立ち飲みをお奨めしたい。
 店名が物語る、これ以上の近距離は望むべくもない、産直かまぼこの風流を堪能しよう。行きがかり上、徹底してこだわるならば、油揚げにはんぺんを挟んだヨコヅメなるものもある。

予算1600円
東京都北区岸町1-1-10

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