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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第240回 希望なき選択

 安倍晋三内閣総理大臣が秋に開かれる臨時国会冒頭において、衆議院を解散する意向を与党幹部に伝えた。さらに、安倍総理は2019年10月の消費税率引き上げに際し、
 ○1兆円超を教育などの充実策に振り向ける
 ○基礎的財政収支(以下、PB)黒字化目標の先送り
 と、一部のメディアで報じられている。

 消費税率を8%から10%に引き上げてもデフレは深刻化せず、他の税収が減らないという前提に立つと、増収分が5兆円台半ばになる見込みとなっている。政府はそのうち約4兆円を「国の借金」の返済に充て、1兆円分を医療、介護といった社会保障の充実に回す予定であった。
 今回、安倍総理は負債返済分の4兆円のうち、1兆円を教育に回す。結果、PB黒字化目標は先送りせざるを得ない。財政規律の緩みが一段と進む──。という報道が流れているわけだが、もはやどこから突っ込めばよいのか分からなくなってしまう。とはいえ、とりあえずすべてに突っ込んでおこう。

(1)消費税増税分は社会保障充実ではなく負債返済に回されてきた

 そもそも「税と社会保障の一体改革」は、「社会保障の安定化のために消費税増税を」という論法だったはずだ。少なくとも、国民の多くはそう理解していたわけである。ところが、現実には消費税増税分の多くは負債返済に回された。結果、PBの赤字は確かに一時的に縮小したのだが、その分、日本経済にはマイナス成長の圧力がかかり、'16年以降、わが国の経済は再びデフレ化してしまう。
 左図(※本誌参照)の通り安倍政権は'14年、'15年とPB赤字を強引に圧縮した。具体的には増税し、政府の支出を切り詰め、負債を返済したのである。PBの赤字縮小とは、政府がその金額分だけ支出をせず、負債を減らしたという意味になる。'15年の日本のPB赤字は、16.5兆円。それに対し、緊縮財政が始まる以前の'13年は35.1兆円であった。その差額は何と14.6兆円!
 日本政府がせめて'13年並みのPB赤字幅を維持してくれていたならば、わが国の'15年のGDPには、プラス3%の拡大圧力がかかったことになる。デフレ脱却も、余裕で達成できただろう。
 ところが、現実の安倍政権は'14年から緊縮財政に舵を切り、PB赤字の縮小に乗り出した。結果的に、日本経済は再び需要が不足し、'16年にインフレ率がマイナスに落ち込み、再デフレ化。名目GDPが伸び悩み、税収が減ったため、またもやPB赤字が拡大に転じてしまった。
 デフレの国は税収が増えないため、当然ながらPB赤字は拡大する。一度、'14年に失敗したにもかかわらず、まるで学習することなく同じことをする。もはや「絶望的に間違えている」としか表現のしようがない。

(2)教育への支出は「投資」である

 教育への支出は「投資」になる。将来の日本国民の生産性を高めるための「人材投資」こそが、教育支出なのだ。投資である以上、財源として普通に国債を発行すればいいものを、結局は「増税」による教育支出。例の「子ども保険」と発想が何も変わらない。

(3)そもそも、PB黒字化目標がナンセンス

 財政健全化の定義は「政府の負債対GDP比率の引き下げ」であり、他にはない。政府の負債削減でもなければ、もちろんPB黒字化でもないのだ。それにもかかわらず、政府は消費税増税による増収分を、負債削減に回してきた。さらに、BP黒字化目標の破棄すらできず、達成期限の延期。PB目標が維持される以上、予算の拡充は不可能で、日本経済のデフレが長引くだけである。
 しかも、PB黒字化目標先送りと「引き換え」に、消費税増税の決定。悪夢である。その上、PB黒字化目標達成時期の延期について、マスコミが、
 「PBのさらなる悪化は不可避」(日経新聞の記事より引用)
 「日本の財政への信認を毀損する恐れがある」(同)
 と、批判する。
 ここまでくると、もはや悲劇ではなく、喜劇だ。

 そもそも、政府の負債を減らす必要などない。日本政府の負債は、明治期と比較すると3740万倍以上に増えている。資本主義とは、誰かが負債を増やさなければ成長しない。デフレで民間が負債を増やさない以上、政府が国債を発行し、支出を拡大する以外にデフレ脱却の方法はないのである。
 しかも、日本政府の負債は100%日本円建てだ。政府の子会社である日本銀行が国債を買い取ることで、政府の負債は実質的に消滅する。
 それにもかかわらず、政府が存在しない財政問題に足をとられ、デフレを深刻化させる消費増税を強行。増税でデフレが深刻化したとしても、安倍政権はPB黒字化目標達成時期「延期」と引き換えに、増税を実現しようと図る。それを受け、マスコミが「PB黒字化目標達成時期の先送りは問題だ!」と、批判を展開する。
 大本が狂っているため、ここまで議論がおかしくなってしまうわけである。

 正直、今回の解散総選挙は、民進党の前原代表が「消費税増税+社会保障充実」が持論であるため、そこに乗っかろうとしたとしか思えない。民進党の政策に抱き着き、増税路線について「国民の信任を得る」ことが目的としか考えられないのだ。というよりも、十中八九、そうなのであろう。
 結局、わが国は安倍政権にしても「財務省主権国家」から逃れられなかったという話だ。わが国はこのままデフレが続き、次第に小国化していくことになるだろう。最終的には、中国の属国だ。
 '17年10月に行われる総選挙は、まさに「希望なき選択」の選挙となりそうだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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