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俺達のプロレスTHEレジェンド 第19R 馬場、猪木も認める“涙のカリスマ”〈大仁田厚〉

 FMWの創設は平成元年。そのため大仁田厚を“昭和のレジェンド”として取り上げるのはふさわしくないかもしれない。
 とはいえ初期FMWは、ある意味で“昭和の匂い”に満ちあふれていた。今となっては「電流爆破」に代表される過激デスマッチがその代名詞のように言われるが、当初、観客がFMWに求めたものは、プロレスが本来持っていた“いかがわしさ”にあった。

 大仁田の対戦相手として参集した外敵は、実力のほどもよくわからない面々。日本陣営にしても、来歴すらよくわからない選手たちばかりであった。そんな状況を指して大仁田は「おもちゃ箱をひっくり返したような」と言ったものだが、むしろ「見世物小屋」とでも言う方がピッタリくる。
 エースの大仁田からして全日時代に膝を粉砕骨折した後遺症でまともに動くことすらできない。柔道技で投げまくられ、テコンドー技で蹴りまくられながらも泥仕合に持ち込んで、ドサクサの中で涙ながらの勝ち名乗りを上げるという試合ぶりは、当時主流であったUWFなどのスポーツライクなプロレスとは真逆の存在であった。
 「当時メジャー団体が不透明決着の排除に熱心だったのに比べて、FMWはうさんくささ満点でしたが、なぜかそれがクセになるんです」(当時を知るファン)

 “邪道”を名乗る大仁田だが、全日時代には師匠の馬場からことさらにかわいがられたという。
 「馬場家の養子に…」とまで言われたのは後にも先にも大仁田ひとりで、そこまで見込まれた裏には、やはり“王道”に通じる何かがあったのだろう。一見すると逆ベクトルのようだが、実は大仁田の“邪道”こそが、本来プロレスが持ち合わせていたショービジネスとしてのエッセンスを凝縮したものではなかったか。
 後に大仁田がFMWの弟子、ハヤブサを全日に出場させたいと頼んだときにも、馬場は二つ返事で承諾したという。FMWにおける大仁田のスタイルが馬場の気に沿わないものであったらそんな話を受けるハズもなく、これはどこかで馬場が大仁田の“邪道プロレス”を認めていた証左でもあろう。

 また大仁田は、猪木とも深い因縁を持っている。
 1995年1月4日、東京ドーム。猪木はジェラルド・ゴルドーやスティングを相手に『格闘技トーナメント』なる試合を戦ったが、本来ここで猪木vs大仁田戦が行われる予定だったというのだ。
 「当時、FMWでの2回目の引退を表明していた大仁田から、代理人を通して“猪木さんと戦いたい”という話が持ち込まれ、猪木さんもこれを承諾していたんです」(新日関係者)

 対戦に向けてのアングル作りの準備も進んでいたというが、それが中止となったのは一にも二にも大仁田のせいだった。
 「猪木さんと大仁田が戦えば、言うまでもなく結果は猪木さんの勝ちです。これについては大仁田も納得していました。ところが大仁田は追加で注文を出してきたんです」(同・関係者)

 その注文とは、東京ドームでのシングル戦の後、大阪で開催するFMWの大会に猪木が出場して、そこで“負けてくれ”というもの。
 「引退間際の猪木さんが他団体に出るというだけでも困難事なのに、さらに負けブックを呑んでくれなんて、そんな話はとても猪木さんに伝えられやしない。そのため結局、対戦自体が流れたんです」(同)

 この以前のドーム大会で、猪木は天龍源一郎に敗れていたが、これにしたって「今後、天龍を新日で売り出したい」という営業サイドのたっての希望を猪木が呑んだ結果のことであり、決して天龍自身から望んだものではなかったという。
 だいたい、猪木相手に勝ちブックを要求するなどは、たとえ馬場であっても軽々と口にできることではない。それを平気でやるあたりが、大仁田の破廉恥さであり凄味なのであろう。

 後に大仁田が新日へ本格参戦するとなったとき、新日での会議の席で猪木はひと言。
 「あいつの毒は呑み込めねえぞ」
 いったん大仁田を新日のリングに上げてしまえば、新日が大仁田の色に染められてしまう。そのことを危惧しての発言であった。

 本物は本物を知る−−。それぞれ意味合いが異なるとはいえ、馬場と猪木の2大レジェンドに認められた大仁田は、やはりレジェンドと称するにふさわしいプロレス界の大立者なのだ。

〈大仁田厚〉
 1957年、長崎県長崎市出身。'73年、全日本プロレスに新弟子第1号として入門。翌年4月デビュー。'89年にFMWを設立。2度の引退→復帰を経て'98年に同団体を追放された後、フリーとして新日プロ他で出場を続けている。

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