search
とじる
トップ > 社会 > さらば、さくらや

さらば、さくらや

 メールさえあまりくれない友人から本当に久しぶりに電話があった。仮にアメリカ在住のベン君としておく。ベンは90年代の後半、早稲田大学と国際基督教大学に留学していた。外国人にありがちなおかしなイントネーションを全く感じさせない日本語を話す白人だ。5年前位に成田空港で偶然に会ったのが最後だ。

 ベンは自分の近況を簡単に説明し、私の家族や仕事の塩梅を聞いて、訊ねた。「『さくらや』がなくなるんだって?」ビックリした。たしかに『さくらや』は来月2月28日をもって全店舗を閉めるそうだが、彼にとっては日本航空が法的整理をされたことより大きなニュースだったらしい。「日本に住んでたときにさあ、よく『さくらや』で買い物したもの」、ベンにとっては他の量販店に比べて煩わしくない接客が大のお気に入りだったそうだ。私もベンと同様に学生時代からよく『さくらや』でお世話になった。ビデオデッキ、大型テレビなどの電化製品は殆んどが『さくらや』のものだった。特に思い出深いのは、初めての給料で購入したスピードマスターや、彼女(現妻)に買ったサントスはウオッチKANで選んだものだ。

 急に居ても立ってもいられなくなって、午前中の1時間だけデスクに座り、行動予定表ボードに“新宿”とだけ書き込んで10時30分に会社を出た。社長、許して。山手線の新宿駅を平日のお昼どきに下車するなんて久しぶりだ。階段を上がって東口の地上に出ると、昼食場所を捜して歩く近くの会社に勤める人々も多いが、学生からお年寄りまで予想を上回る混み具合で少し驚いた。

 『さくらや』といえばこの店舗、あまりにも有名な新宿東口駅前店だろう。1980年代にはフィル・コリンズの代表曲の1つである“Take Me Home”のミュージックビデオの中、主要都市のランドマークとして世界中に知れ渡った電飾看板、当時は『カメラのさくらや』だったあの店舗だ。今は店内に大きく告知された閉店の文字を見ると複雑な心境になる。たまたま顔見知りの店員さんを見つけて声をかけた。2年くらい御無沙汰していたのに私のことをちゃんと憶えていてくれた。ありがたい。店内の商品は一律20%OFFになっていたが、交渉次第でもっと安くなるそうだ。ただし、先週の週末、怒涛のような買い物客に売れ筋は殆んど買われてしまったそうだが。
 15日の土曜日には一日だけで二千数百万円の売り上げがあったらしい。「この日みたいに今までコンスタントに売れていれば生き残れたんでしょうけどね。ま、閉店セールだからしょうがないですよね。皮肉なものですよ」と笑っていたが、現状で決定している事として2月28日の閉店後は450人近くいる全社員の30人がベスト電器へ、130人がビックカメラで再雇用される以外は全員解雇らしい。

 私が学生時代にアルバイトをしたハンバーガーの『ウエンディーズ』も先月全店舗閉鎖した。自分の中の思い出が次々に消えていくような気分だ。ああ、とりあえず早いところ景気が上向かないものだろうか…ああ、それと、件の店員さんが言っていたけど、「あと1週間くらいしたら、展示品のセールをしますんで、その時はもっと勉強させてもらいますよ」と。また来週来ます。

<プロフィール>
青山はじめ、宮城県仙台市生まれ。大学を中退後、フィリピンのニュース社でアルバイト。帰国後はなんでも屋を開業しつつ、フリーのライターも兼業している。

関連記事

関連画像

もっと見る


社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ