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防衛レポート 日本の軍需産業「ガラパゴス化」見えない未来(1)

 共産党の藤野保史政策委員長が「人を殺すための予算」発言で党役職を辞任した。新聞・テレビは、対峙する与党だけでなく共闘する民進党からの猛烈批判も連日報道した。ここで思い出すのは、安倍晋三政権が2014年4月に閣議決定した『防衛装備移転三原則』に基づいて同盟国である豪州のマルコム・ターンブル首相を日本に招き、総額4兆円超の潜水艦をセールスした際の、同じく新聞・テレビの報道姿勢だ。
 「人殺しの道具を売らせてはならない!」
 ターンブル首相訪日の間中、野党がこぞってこう叫んでいたことは、なぜかほとんど報じられなかった。

 閣議決定から2年−−。
 この防衛装備移転三原則の柱の一つは、防衛装備の海外移転を一定の条件の下で“正式”に認めたことだ。閣議決定の前後、「日本が開発・製造する武器の外国への販売が増える」とのイメージが広まった。さらに安保関連法が成立し、自衛隊の活動範囲が拡大することを見越し、軍需産業が国家戦略として広がっていくという思惑が露骨に見えた。経団連も「武器など防衛装備品の輸出を推進すべき」との提言を政府に行い“軍事大国”入りを歓迎したほどである。

 ところが…。あれほど果敢にセールスしたはずの豪州向け『そうりゅう型』潜水艦輸出が頓挫してしまった。今年のゴールデンウイーク直前、ターンブル首相が「次期潜水艦の共同開発はフランス企業と行う」と発表したのだ。
 豪政府はケビン・ラッド元首相時代から中国の軍備増強や南シナ海における海洋進出の脅威に備えるため、老朽化した潜水艦の退役と新たな建造、倍増等の防衛計画を打ち出し、昨年9月に就任したターンブル首相もこれを継承。日独仏に潜水艦建造入札を要請していた。受注額は設計建造、メンテナンスなども含め、前述の通り総額4兆円超のビッグビジネス。安倍首相は昨年2度もターンブル首相と会談し、岸田文雄外相もジュリー・ビショップ豪州外相との会談でさかんにPR。さらに三菱重工のトップも豪州入りし、豪州全国紙にそうりゅう型潜水艦の写真入り広告を大々的に掲載した。4月には潜水艦『はくりゅう』がシドニー湾に入りデモンストレーションを行うなど、官民軍一体の売り込みに懸命だった。

 こうまで熱心だったのは巨額の受注もさることながら、日本の軍需産業が今後、本格的に世界の武器輸出ビジネスに参入する上で不可欠な“国産兵器”の知名度アップの成否を占う重要な試金石になるからだ。
 日本は武器輸出三原則により、事実上、武器の輸出を禁じてきた。三原則とは、共産圏や紛争当事国あるいはその恐れがある国、国連決議による武器輸出禁止国に対する輸出を禁じるというもの。ただし、直接法律で規定されたものではない。1967年4月、当時の佐藤栄作首相が衆議院決算委員会で行った答弁に基づき、これによって日本は、いわゆる「死の商人」に歯止めをかけることになった。

 反面、産業のガラパゴス化を招いたのも事実。何しろ日本の武器市場は極めて限定的だった。業界の発展、技術革新、熟練工などの人材育成、国際競争力などが著しく低下し、先細りが懸念されていたというわけだ。
 「日本の武器メーカーは防衛省、海上保安庁、警察庁が顧客。国策なので作れば必ず売れます。ただし、大口の防衛省でさえ予算は限られている。内訳を見ると、自衛官の人件費と食糧費が約44%を占めており、残りの予算も研究開発、施設整備、訓練活動等に割り当てられるので、武器弾薬など正面装備の予算は約16%にすぎません」(軍事ジャーナリスト)
 日本の防衛産業市場は1兆8000億円とも2兆円ともいわれる。だがこれは、あくまでも食糧や被服なども加えた数字で、武器弾薬に限定したものではない。このように狭い市場の中で日本の武器メーカーは“共食い”しているのが実情。従って競争原理は作用せず、受注の独占化、企業の寡占化、随意契約の常態化、装備品の高額化、天下りに見る政官業の癒着、談合などいびつな構図を作り出す。

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