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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 年金カットか年金確保か

 国会で年金制度改革法案の審議が紛糾している。原因は、民進党が年金改革関連法案を「年金カット法案」と呼び、政府の姿勢を糾弾しているからだ。
 民進党の試算によると、改革法案が導入する年金給付決定方式が仮に2005年度から10年間適用されていたとすると、年金給付は基礎年金で年額4万円、厚生年金で14万2000円減額されたとしている。これは5.2%の減額となり、年金世代の生活を破壊してしまうというのが民進党の主張だ。
 一方、こうした追及に自民党は猛反発している。党のホームページでは、年金制度改革法案のQ&Aを設けて、「今回の法案に対して『年金カット法案』という批判がありますが、本当ですか?」という問いに対して、「いいえ、ちがいます。安倍政権はデフレ脱却や賃金上昇を含む経済再生に全力で取り組んでいますが、万一、不測の経済状況が起きた場合の備えとして、将来世代の年金水準を確保するための仕組みを整えます」と回答している。

 民進党が「年金カット」と非難するのに、自民党は「年金確保」だと主張する。一体どちらが正しいのか。結論から言うと、どちらも正しい。民進党の主張するように、この法案は、年金給付をカットするためのものだ。
 いまの公的年金給付は、物価上昇率と実質賃金上昇率のどちらか低いほうに合わせて調整される。ただし、物価上昇率がプラスで、実質賃金上昇率がマイナスの場合は、据え置きとなる。そんなことが起きるのかと思われるかもしれないが、まさに昨年がそうだった。
 また、少々難しい話になるが、今回の年金制度改革法案は、毎年1%程度ずつ年金給付額を引き下げるマクロ経済スライドが、物価下落などで実施できなかった場合には、デフレ脱却時に未実施分をまとめて実施するという内容も含んでいる。つまり、経済情勢がどうなろうと、年金給付を確実にカットしていきますよというのが、今回の法案の趣旨なのだ。
 その意味で、民進党の主張は正しい。しかし、年金給付の引き下げを先延ばしにすると、将来にツケが回ってくる。自民党は、その点を強調して、将来の「年金確保」法案だと主張しているのだ。

 こうした与野党のすれ違いは、なぜ起きるのか。その原因は、12年前にさかのぼる。
 この年に政府は、それまで積立方式だと主張してきた年金を、こっそり賦課方式に変更した。それまで、年金は保険料を支払った本人に返ると言ってきたものを、支払った保険料がストレートにその年の高齢者に支払われることにしたのだ。年金積立金の大部分を使い込んでしまったからだ。
 ところが、政府はそのことで一度も謝罪をしていない。だから、今からでも政府は次のように謝罪すればよいのだ。
 「皆さんが支払った保険料の積立金が、大部分を使い込んでしまいました。そのため、今後は皆さんが支払った保険料を、いまのお年寄りで山分けすることにします」
 こう素直に謝ってしまえば、年金給付をめぐる争いはなくなる。毎年の年金給付水準は、集めた保険料の総額で、自動的に決まってしまうからだ。

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