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【不朽の名作】これで終わっていればシリーズの評価も高かったかも「踊る大捜査線 THE MOVIE」

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 今回は“踊る”愛称で親しまれ1990年代後半にヒットした刑事ドラマの劇場版第1弾『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年公開)を扱う。

 同シリーズといえば、続編の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年公開)が邦画歴代興行収入で現在実写映画としては1位に位置していることで知られている。同時に、このTHE MOVIE 2と、10年公開の『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』、12年公開の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は、伝説の実写版『デビルマン』ほどではないが、かなりの酷評を受けている邦画としても有名だ。

 本作はというと、続編である3作に比べれば、世間的にはだいぶマイルドな評価となっている。が、よくよく振り返ってみると「これは…」と酷評される要因となりそうな部分が随所にあるのだ。ドラマシリーズから追いかけて来た人のための、ファンサービスムービー的な要素を維持しているからそれほど悪目立ちしないだけで。

 まず、同シリーズは地上波放送時のドラマで、他の刑事ドラマとの違いを強調してきた点で評価を受けていた。凶悪犯とのド派手な銃撃戦やカーチェイスはなし。警察の内部矛盾、キャリア制度による官僚主義などをドラマの中心に置き、所轄警察署と警視庁の捜査時の力関係を所轄の湾岸署側からサラリーマン的に描いた物語が特徴だった。主役も脱サラし、交番勤務も経て刑事となった青島俊作(織田裕二)ということで、これも当時の刑事ドラマの主役としては斬新だ。

 本来売れ線である部分からの外しと、所轄のある意味でのユルさダメっぷりを描くことで、このシリーズはドラマで成功してきた。しかし、劇場版の本作ではその部分が活かし切れなくなっている。扱っている事件が警視庁副総監拉致事件と湾岸警察署内で発生した猟奇的殺人事件という2テーマだからだ。

 ドラマシリーズでは、殺人事件などは起きるものの規模的には作品のノリに合ったものが多かった。しかし、劇場版になった影響なのか、事件の規模を大きくしすぎている。もう本作特有のユルい空気とシリアスのバランスが危うくなってきてしまっている。それでも湾岸署内での窃盗事件を絡めることで、ギャグのノリは維持してはいるが。これが、『あぶない刑事』シリーズなら、元々荒唐無稽な作品なので、相手がテロ組織だろうと、巨大マフィアだろうとノリは変わらず「まあ、あぶ刑事だし」で許されてしまう。しかし、本作はある意味での警察や刑事の「リアル」な姿が売りだったので、さすがに事件にそのあたりが追いつかなくなっている。

 加えて、同作はとにかく凶悪犯の描き方が下手くそだ。被害者の胃の中に熊のぬいぐるみを入れて殺した日向真奈美(小泉今日子)は、おそらく『羊たちの沈黙』のレクター博士を意識したのだろうが、これがとりあえず狂ってればいい的なノリでかなり安っぽい。これはドラマシリーズの最終回あたりでも言えたことなのだが、作中にサイコパスを出す際、同シリーズでは狂ってる感を、とりあえず思わせぶりで笑わさせるか、変な表情をさせるかでしか表現しない。このワンパターンは今後のシリーズでも続いていくことになっていく。

 また、警視庁副総監拉致事件の犯人も非常に安っぽい描写しかされない。オチを言ってしまうとこの拉致事件は犯罪マニアの少年グループがネットを通じて「ゲーム」感覚で引き起こした事件となっている。その犯人の性格付けが、ドラマ第8話「さらば愛しき刑事」に登場した、警察の若手プロファイリングチームと同じく、とにかく相手を小馬鹿にする言動を繰り返すだけのキャラとなっている。これは偏見かもしれないが、「パソコンをやっているやつは大体こんな性格」という脚本家の意識が透けてくる部分だ。今後の作品でもパソコンを武器にする犯人やキャラはこんなノリで出てくる。家や職場にパソコンがあるのが当たり前になった2000年代に入ってからも、だ。

 それでも同作が一応面白さを維持しているのは、テレビの特別編で未回収だった部分を回収するという緊張感があったからだ。ドラマのレギュラー放送時に青島との身分を超えた信頼関係を強調されていた室井慎次警視正(柳葉敏郎)が、管理官から参事官に昇格してからの誤解や、わだかまりの解消。さらに、恩田すみれ巡査部長(深津絵里)が辞職するのか否かの答えがこの作品では出る。また、拉致された副総監と和久平八郎指導員(いかりや長介)の関係をそのまま青島と室井の関係性にスライドさせることで物語に厚みを持たせることにも一応成功している。

 そして、本作の予告編で目玉となっていたのが、青島が殉職するかどうかだった。有名な「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」のセリフの後から、クライマックスに向かう途中まで、完全に青島を完全に殺しに来ているノリで、かなりの緊迫感がある。負傷の描写もよく刑事モノである殉職シーンそのまま。しかし、最後の最後で大きな外しをする。それが本作中最大のギャグシーンとして語りぐさになるほどで、本作が危うい部分はありつつも、なんだかんだでギャグとシリアスのバランスを維持しきったことを象徴するシーンでもある。

 踊るがテレビシリーズでやってきたものに一応の決着をつけたのが、同作だった。正直おふざけシーンのノリ的にはその後の作品と大差がない。ドラマシリーズで未回収だった部分に答えを出すというメインテーマがあったので、多少の粗やツッコミ所があっても本作では許されていた。しかし、その後の作品では全くの新展開となるため、粗ばかりが強調され、酷評されていくことになる。また、本作とテレビシリーズのキャラの性格はそれほどズレていないが、その後の作品では答えに向かうために無理やりキャラを捻じ曲げる要素なども目立つようになる、そのあたりも評判の悪い理由だろう。今考えてみると、同作で終わりにした方が、踊るシリーズは伝説になっていたかもしれない。

 ちなみに、酷評されている続編の『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』だが、BL(ボーイズラブ)的な視点で考えると意外とよく出来ているかも。本庁初の女性管理官・沖田仁美警視正を完全に悪役として描いており、青島と室井の、ホモソーシャル的なノリをシリーズ中でもかなり強調している。その徹底ぶりは凄まじく、途中ですみれを負傷退場させてしまうほどだ。その結果に向かう為に、時々登場人物の知能指数が著しく低下しているのは問題だが…。他の2作は…。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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