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プロレス解体新書 ROUND13 〈夏の祭典『G1』の原点〉 期待に応えた蝶野vs武藤の熱戦

 今年で26回目を迎えた日本プロレス界最大の夏フェス『G1クライマックス』。記念すべき1991年の第1回大会は、まったく先の読めない波乱の連続で、プロレスファンのハートをがっちりつかんだ。

 水商売や興行の世界では、昔から2月と8月のいわゆる“ニッパチ”が「売り上げ不振の月」とされている。2月は正月に緩んだ財布のヒモを締めるため、8月は酷暑を避けて外出が減り、また、お盆や夏休みで家族サービスに精を出す人が多いため、というわけだ。
 これはかつてのプロレス界においても同様だった。
 「地方巡業を重視していた時代は、リング上のアングルに関してもある程度の年間スケジュールが決まっていました。1月に新たな抗争のタネまきをして、3月から本格スタート。6月頃にはこれにいったん決着をつけて、7月にはまた下半期に向けてのタネをまくといった具合。そうして2月と8月は、重要な試合や長期の地方遠征を避ける傾向にあったのです」(元プロレス団体関係者)

 だが、逆をいえば他にビッグイベントがないのなら、それは独り勝ちのチャンスでもある。
 「そこで一儲けをたくらんだのが、当時、新日本プロレスの現場監督だった長州力と“仕掛け人”永島勝司(取締役企画宣伝部長)のコンビでした」(同)

 アントニオ猪木が'89年に参議院議員となった頃から、実質的に団体のかじ取りをしてきたこの2人。同年にはプロレス界初の東京ドーム大会を成功裏に終えると、以降も毎年のドーム大会を実現してきた。
 その結果、細々と地方を回る旧来の巡業スタイルではなく、ビッグマッチで集中的に稼ぐビジネスモデルへの移行が、模索されるようになっていったという。
 「そこで新たに目を付けたのが、これまで興行の谷間とされてきた8月でした。東京ドームはプロ野球などで一杯でも、両国国技館なら空きがある。ならば『とにかく3日間押さえてしまえ』というのが話の始まりだったわけです」(同)

 そうして両国3連戦を埋められる企画について、何かと検討を重ねた結果、'87年の第5回IWGPリーグ戦を最後に、新日では行われていなかったシングルマッチのリーグ戦開催を決定した。現在まで続く夏の名物シリーズ『G1クライマックス』は、このような、いわば算盤づくで生まれたものだった。
 両国3戦に開幕戦の愛知県体育館大会を加えた全4大会の短期戦。参加は全8選手だった。
 Aブロック=藤波辰爾、武藤敬司、ビッグバン・ベイダー、スコット・ノートン。Bブロック=長州力、橋本真也、蝶野正洋、クラッシャー・バンバンビガロ。

 下馬評は長州、藤波に外国人トップのベイダーの三つ巴。しかし、その裏ではまったく別のアングルが用意されていた…。
 「開幕戦で蝶野が長州からSTF(ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェースロック)でギブアップを奪ったときも、まだ多くのファンや記者連中は、たまたまの結果と捉えていました。しかし、長州は続く橋本戦でも蹴られまくっての完敗。さらにビガロにも敗れて全敗となり、その意外な結果によって大会そのものへの注目度が、グンと高まったのです」(スポーツ紙記者)
 Bブロックはその長州を破った蝶野と橋本が、ともに2勝1分でトップに並ぶ。一方、Aブロックでも武藤が藤波から初のフォール勝ちを奪うなど、2勝を挙げて単独トップとなり、その結果、決勝は闘魂三銃士の3人で争われることとなった。

 迎えた両国3日目の最終戦、先に行われたBブロック代表決定戦では、蝶野が橋本をSTFで下して、武藤の待つ決勝にコマを進める。すでに米WCWで、グレート・ムタとしてブレイクしていた武藤はまだしも、三銃士の中で最も地味な存在だった蝶野の決勝進出は、誰もがまったく予想しないものだった。
 「新日のリーグ戦が中断されていたのは、UWF勢の離脱やWWF(現WWE)との提携解消による目玉選手の不足に加え、何より主役である猪木の衰えという明白な理由があってのこと。それを復活させる以上は新たな方向性が必要だということで、長州&永島コンビの用意したのが“闘魂三銃士の売り出し”アングルでした」(同)

 満員の観客席から視線が注がれる中、じっくりとしたグラウンドの攻防で始まった決勝戦。ともに持ち味を出し切った30分近くの激闘の末、蝶野のテーズ式低空パワーボムによってついに決着。以後、通算5度のG1優勝を果たすことになる“夏男”誕生の瞬間だった。
 無数の座布団がリングに舞う。競馬でいえば最低人気の穴馬が勝ったような大波乱に、興奮しきりの観客たち。むろん意外性だけでなく内容も素晴らしかったからこその狂騒であり、この試合のインパクトによって、今なおG1が続いているといっても決して過言ではない。

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