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知らないと食べられない田辺グルメ その2

 和歌山県田辺市は梅の花が咲く季節になると、海にも春が訪れる。ヒロメ(ひとはめワカメ)は春を告げるこの地方の季節限定食材だ。普通のワカメよりも肉厚で香りが濃い。目にも色鮮やかなグリーンと、コリコリとした爽快な歯ごたえと磯の香りはこの時期欠かせない田辺の味のひとつだ。梅の花目当てに旅行に来た人は、立ち寄った料理店や宿泊先で、刺身のツマにこのヒロメを必ず見るのではないだろうか?

 そう ヒロメの主な食べ方としては 刺身のツマのように そのまま醤油でいただくとか、酢の物やサラダ、味噌汁にしたりと、普通のワカメとそう変わりはない。収穫高も少ないらしく、あまり市場には出回らないらしい。しかし地元の魚屋や八百屋を覗いてみると一袋200円前後で、茶色く、こう言ったら申し訳ないが、汚らしい海草が売っている。知らない人が見たら絶対に買わないだろう。第一食べ方がわからない。それが 煮立った湯の中に入れると、一瞬でその姿を変える。春らしい見事なグリーンに食欲もそそられる。ヒロメと言うのは、季節限定で食べられることの出来る海草で、これが「知らないと食べられないグルメ」なのか?

 もちろん、季節限定なので食べようと思ったなら、知らないと食べられないのだが、そうではない。実はこのヒロメを「天婦羅」で出している店があるのだ。
 紀伊田辺駅前小さな花屋の横を入っていくと割烹料理「からかさ」がある。ここで、「ヒロメの天婦羅」が食べられるのだ。いつもはスタンダードな割烹料理屋なのだが、ここの大将がけっこうエキセントリックな人で、いつも 「食」に面白さや驚きを作ろうとする。客からの「美味しい」と言う声はもちろんの事、「へ〜!」と言う感嘆の声の方が大将は嬉しいようだ。だからと言って、奇妙に生理的に受け付けないような食べ物は作らないのでご安心下さい。

 では、「ヒロメの天婦羅」とは、どのようなものか? 見た目は、大葉の天婦羅のように、薄いヒロメの形そのままに揚がっている。知らないで出されたら、「これは何だろう?」と思うような正体が分からない。実際、私の向こう側のカウンターに座っていた旅行客らしき人達が、不思議そうに「これは 何の天婦羅ですか?」と聞いていた。どうやら、ランチに通常付いている天婦羅の中に紛れていたらしい。「ヒロメっちゅう、この辺りで採れるワカメや!」と自慢げな大将の期待通り、旅行客は「ワカメ!?」と天婦羅を二度見する。そして、ヒロメについての大将のウンチクを聞きながら、ちょっと得をしたように満足げに微笑む旅行客。その姿を見ながら大将が言う「あんたらラッキーやで!」

 そう! この「ヒロメの天婦羅」メニューには載っていないのだ。なので、もし食べたいのなら、知らないといけない! たまに、このように大将の気分でこっそり忍ばせてくれる事はあるのだが、基本的に知らないと食べられない。少し高めの寿司屋にメニューが無い様にこの店にもメニューはない。ランチはランチと注文すると本日のお勧めが出てくるし、夜は一人幾ら見積もってもらうか、食べたい食材を指定するとコースで出してくれる。その中から気に入ったものを個別に注文すると言うシステムなのだ。
 と少し脱線したが、味の方はと言うと…「ああ! ビールが欲しいなぁ!」との旅行客の声に、私は激しく頷いた。なかなか味の表現が難しいのだが、ビールに合いそうな味と言うので想像してほしい。ちょっと表現は悪いかもしれないけど、ポテトチップの、のりしお味が 一番近いだろうか? サクサク、アツアツの衣に包まれた磯の香りたっぷりのヒロメ。夏に食べられないのが残念に感じる。夏の暑い中、この天婦羅でビールを飲む…想像するだけで唾液が出る。ついつい手が止まらない。この季節、少し寒いが梅の花のしたで天婦羅とビールなんて言うのもイキじゃないだろうか?

 しかし! 今、これを読んで生唾を飲んだ方、申し訳ない。もうすぐ、その季節も終わってしまうのだ。どうか、来年の楽しみに取っておいて欲しい。そして、来年来るような事があったら、ビールを飲める状態で来て欲しい。私も残念ながら車できてしまった。

■割烹料理「からかさ」

(江須井 大 山口敏太郎事務所)

参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou

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