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赤字地獄で第二の国鉄? 夢のリニア新幹線 大いなる5つのリスク

 JR東海は9月18日、社運を懸けた巨大プロジェクト、リニア中央新幹線の東京(品川駅)-名古屋間の詳細なルートと駅の位置を公表した。今年度中に国の認可を得て、来年夏にも着工する予定だ。
 2027年の開業を目指す東京-名古屋間は40分、2045年が目標の全線開通となれば、東京-大阪間は67分と、新幹線の半分以下の時間で結ばれることになる。将来は“通勤圏”になり得るかもしれない。

 ところが、この“夢の乗り物”の前途を危ぶむ声が多く聞こえている。
 新幹線は国と地元自治体、JRが費用を負担し合うのが一般的。しかし現在、北海道、北陸、九州の整備新幹線が進行中であり、リニアを同じ枠組みで建設すれば後回しにされかねない危機感を持ったJR東海は、単独のプロジェクトを決断した。とはいえ、今年3月期で連結売上高1兆5853億円、営業利益4261億円だった同社にのしかかる負担は重い。大いなるリスクへの懸念がくすぶっているのはこのためだ。

 その第一は、時速500キロ超で走るリニアの消費電力。新幹線に比べると、約3倍近くに膨らむことにある。東電管内では福島原発事故の影響で再稼動の見通しが立っていない。そこへ“電力食い”のリニアが1時間当たり10本運航する。これでは電力需要がピークを迎える夏場の安定確保に支障を来しかねない。
 山田佳臣社長は18日の会見で「電力がない状態のシナリオに基づいていない。日本が立ち直れるための手段が講じられるはずだ」と言葉を濁したが、市場には「東電を含めた原発再稼動を前提にしている」との冷ややかな観測さえ飛び交っている。

 第二は富士山大爆発や地震などの災害リスクだ。リニアは10センチ浮上して走ることから脱線のリスクが低く、災害に強い構造とされている。だからこそ、大動脈である新幹線のバイパスとしての機能が期待されている。
 とはいえ、東海地震や南海トラフ地震などに直撃されれば地下トンネルでの立ち往生、火災発生など不測の事態に陥らないとも限らない。それにどう対処するか−−。損害賠償リスクを抱え込むだけに将来に火種を抱え込む構造だ。

 JR東海は運賃収入の約9割を新幹線で稼ぎ出す。バイパスのリニアがドル箱路線と競合すれば、結果的に「共食い」の事態を招きかねない。これが第三のリスクである。
 東京発の東海道新幹線利用者のうち、新大阪までの客と名古屋で降りる客の割合は、ほぼ6対4の割合とされている。当面は名古屋止まりでも商売になるとソロバンをはじいたようだが、関係者が耳目を疑ったのはその料金だ。東京-名古屋は、のぞみ指定席にプラス700円程度、東京-新大阪も、わずか1000円程度の上乗せにとどめ、割安感をアピールしている。
 要は採算性を度外視したプロジェクトであり、従来の新幹線の客を奪うことが存在感のアップにつながるのだから皮肉である。

 第四のリスクは、大いなる金食い虫事業に陥ることだ。前述したようにJR東海は東京-名古屋で5兆4300億円、東京-新大阪の全線開通で9兆円の工費を見込んでいる。だが、その枠内で収まるとは誰も思っていない。
 プロジェクトが東北復興、東京オリンピックと同時進行で進めば資材不足に拍車が掛かり、これが工費高騰を招くのは明らか。リニアの86%は地下やトンネルが占め、難工事が避けられないことから「下手すると予算額の倍近い出費を強いられる」(アナリスト)との声さえ聞かれる。

 さらに厄介なのは政治介入だ。これが第五のリスクである。JR東海は駅の建設費用3250億円を全額負担する。当初は自治体に負担を求めていたが、一部に「血税注入はまかりならん」と反発する動きがあったことから、全額負担での見切り発車を決めた経緯がある。これに小躍りしたのが滋賀、京都など。現状ではルートから外れているため「是非ルートを大きく曲げて新駅を」と猛アタックしている。永田町関係者が苦笑する。
 「東京オリンピックまでに東京-名古屋間を開通させろ。それが無理なら東京-甲府間でもいい、と騒々しい。一方、品川駅発着よりも東北、北陸と直結する東京駅始発が望ましいと、選挙を意識した連中も横ヤリを入れる始末」

 大手シンクタンクは東京-名古屋開通の経済効果を10.7兆円、大阪まで開通した場合は16.8兆円と試算している。工費とのギャップは、それぞれ5兆円強と8兆円弱。予想される工費の急騰を加味すれば経済効果とそう変わらない可能性もある。
 悲鳴を上げるのを承知で突き進む巨大プロジェクト。“夢”のままで終わらなければいいのだが。

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