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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第219回 緊迫の北朝鮮危機

 この号が発売されるころには事態が大きく動いているかもしれないが、北朝鮮危機が緊迫している。本稿執筆時点で、アメリカは原子力空母カールビンソンを主力とする空母打撃群を朝鮮半島に向けて航行させている。

 日本経済新聞は4月12日に《北朝鮮攻撃なら事前協議 米、日本政府と確認》というセンセーショナルな見出しの記事を報じた。アメリカが軍事行動に踏み切る場合、日本政府が事前協議をすることを要請し、米側も応じる意向を示したとのことである。
 またロイター通信によると、海上自衛隊は朝鮮半島の近海に向けて航行中の米空母カールビンソンと共同訓練を検討しているとのことである。「戦闘」のリスクが高まっている海域で、海上自衛隊がアメリカ海軍と共同訓練を実施する。時代は、大きく変わりつつある。

 北朝鮮の核・ミサイル危機は、もともと“デッドライン”がある話であった。アメリカは北朝鮮が「核の小型化」に成功するか、もしくは北米大陸まで届く大陸間弾道弾を開発することは、絶対に許さない。その「前」の時点で、アメリカは確実に北朝鮮に対する軍事行動を起こすはずだ。
 アメリカが北朝鮮をミサイル攻撃、あるいは爆撃した場合、北朝鮮軍はソウルに砲弾の雨を降らせる可能性が高い。何しろ、ソウルと国境は40キロしか離れていないのだ。ソウルに長射程砲の弾丸が降り注ぐと、万単位の死者、数十万単位の負傷者が出るのは確実と考えられている。
 それでも、アメリカは北朝鮮に対する軍事的圧力を強めている。将来的に、北朝鮮がアメリカにまで届く核ミサイルを保有するリスクと、今、ソウルを砲撃されるリスクを比較し、前者の方が「重い」と判断したのではないだろうか。

 また、今回の北朝鮮危機の深刻化には、中国国内の事情も絡んでいる。多くの日本国民が勘違いをしているが、中国は決して「一枚岩」ではない。中国指導部は現在、「習近平派」と「江沢民派(上海派、吉林閥)」の二つに分裂した状況にある。
 中国共産党序列3位の張徳江、5位の劉雲山、7位の張高麗の3人は、江沢民派に属している。彼らこそが、軍閥で言えば北部戦区(旧、瀋陽軍区)を「領有」し、北朝鮮や金正恩の後ろ盾になっているのだ。
 北朝鮮の生命線と化し、石油や食料を輸出しているのは、中国というよりは北部戦区なのである。北京政府が北朝鮮への「禁輸」を実施しても、ほとんど効果が見られないのは、北部戦区が「隠密輸出」をしているためなのだ。
 習近平は2016年の軍改革の際に、瀋陽軍区を北京軍区と合併させ、コントロール下に置こうとしたが失敗に終わった。むしろ、瀋陽軍区は内モンゴル地区や山東半島を取り込み、北部戦区として巨大化してしまい、北朝鮮との結び付きをますます強めた。
 4月6日からフロリダで行われた米中首脳会談において、トランプ大統領が習近平に「北朝鮮を自制させよ」と圧力をかけたのは確実だ。とはいえ、習近平には北朝鮮を「抑え込む」力など端からないのである。

 また、'14年に失脚した周永康(江沢民派)の罪状の中には、「北朝鮮に対する機密漏洩罪」があったという報道が流れている。
 香港紙「東方日報」によると、'13年に処刑された張成沢(金正恩の叔父にあたる)が、'12年に胡錦濤に面会した際に、
 「金正日の跡継ぎは、金正恩ではなく、中国寄りで改革開放を進めるであろう金正男にさせるべきだ」
 と語っていたことを、北朝鮮に密告したとのことである。
 周永康の機密漏洩が事実だったとすると、なぜ金正恩が'13年に叔父の張成沢を残酷に処刑したのか、さらには今年の2月に金正男をマレーシアで暗殺したのかが、ようやく理解できる。張成沢を排除しても、金正男が中国(北京政府)に保護されている限り、金正恩は中国主導の「クーデター」という恐怖に怯え続けなければならない。

 金正恩は、中国指導部の「北部戦区と無関係な勢力」つまりは習近平らに対し、極度の不信感を持っていると思われる。よくよく考えてみれば、金正恩が北朝鮮のトップに就いて以降、いや習近平が国家主席になって以降、中朝首脳会談は行われていない。最後の中朝首脳会談は、胡錦濤と金正日の2人によるものであった。
 しかも、4月10日に韓国を訪問した武大偉・朝鮮半島問題特別代表は、
 「中国はいかなる場合でも北朝鮮の核保有国としての地位を認定せず、黙認しない」
 と、発言。中国というより「北京政府」は、完全に北朝鮮「切り捨て」の方向に動いていると見て間違いないだろう。

 その上、金正恩にはあまり時間が残されていない。何しろ、今年の秋の中国共産党第19回党代表大会で、習近平国家主席と李克強首相を除く、「江沢民派」を含む5人が、年齢的な理由(67歳が上限)で引退すると考えられているのだ。すなわち、中国共産党の党執行部から、張徳江ら北部戦区の支配者らが消え失せてしまう可能性が濃厚なのである。
 北部戦区が習近平の手中に落ちると、金正恩は今度こそ「何の後ろ盾もない」状況でアメリカという世界最強の軍事力と直面することになる。

 トランプ大統領は、4月11日に、
 『North Korea is looking for trouble. If China decides to help, that would be great. If not, we will solve the problem without them! U.S.A.』
 と、ツイート。とりあえず、中国の「対処」に期待し、もし中国が対処しない場合、アメリカは中国なしで問題を「解決」すると、アメリカ大統領が自ら宣言したわけだ。
 そして、少なくとも中国の北京政府には、北朝鮮問題を解決に導く手段が(今のところ)存在しない。

 大東亜戦争敗北から72年。日本国民が「お花畑的な平和」から目覚めなければならない日が訪れたようだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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