ワタミについては5月に、一部マスコミで「60〜80店舗の大量閉店」というスクープが報じられている。本誌は、まずそのワタミに真偽のほどを聞いた。
ワタミ広報担当者がこう明かす。
「来年3月までに順次65店の不採算店舗が撤退する予定です。今年2月までの売上高は、対前年比超えが4〜5年あまり続いていました。ところが3月になり、コロナの影響で売り上げが大きく減少し、4月からは緊急事態宣言で直営店が休業になったことで、売り上げは9割方まで落ちました。そのため採算が厳しい店舗の撤退を決めたのです」
ワタミの店舗は全部で約500店なので、65店とはかなりの大規模閉鎖だ。
’84年に渡邉美樹氏が創業したワタミは、基本業態の「居食屋 和民」で居酒屋ブームを作り上げた。’13年3月期には売上高が1578億円、営業利益が93億円に達している。
だが、同年に渡邉氏が参議院選挙に出馬するため経営トップを退くと、業績は低迷。加えて労働トラブルをめぐる裁判沙汰もあり、客離れが起きて苦しい時代が続いていた。
しかし、ここ数年は業態の変遷や経営努力を重ね、渡邉氏が復帰したことで再び勢いを取り戻しつつあった。その矢先に起きたのが、新型コロナウイルスの直撃だ。’20年3月期の連結決算は、最終損益が29億円の赤字となり、3年ぶりの最終赤字。前期が13億円の黒字だけに、コロナ禍の影響度がうかがいしれる。
経営コンサルタントがこう言う。
「ワタミには長年かけて培かった経営のノウハウがあり、今のままの業態でアフターコロナとなっても、売り上げが元に戻らないと瞬時に判断したようだ。柔軟な発想をもって、思いきって不採算店の撤退を決めたようです」
今回の新型コロナ禍で経営に苦しんでいるのは、ワタミだけではない。外食大手のコロワイド(神奈川県横浜市)は、居酒屋「甘太郎」や「北海道」など2665店を展開しているが、不採算店の196店を閉鎖すると発表している。
飲食業界関係者が言う。
「コロワイドの大量撤退も、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化したためだ。ワタミ同様、感染拡大が収束しても、居酒屋の業態は厳しい経営が続くと判断し、整理を決めたということだろう」
東証二部上場で関西圏を中心に居酒屋やファミレス、うどん店を展開する外食チェーンのフレンドリー(大阪府大東市)も、全70店のうち41店を順次閉店すると発表した。
閉鎖の対象となるのは主に居酒屋業態の店舗で、産直鮮魚と寿司・炉端「源ぺい」の18店や新・酒場「なじみ野」の5店。今後は、うどん店に業態を絞り、経営を効率化していくという。
一部の店舗を閉鎖するところは、まだ序の口かもしれない。中には会社全体が立ち行かなくなり、破産に追い込まれるケースも出ている。
例えば、東京・新橋で魚介や焼き鳥などの和食居酒屋「魚串 然」を営んでいた北の旬・然は、周辺企業がテレワーク主体になったのを機に客足が落ち、このほど破産手続きに入らざるを得なくなった。
また、昭和を彷彿させるレトロな雰囲気で、多くのなじみ客に慕われた東京・神保町の大衆居酒屋「酔の助 神保町本店」も、コロナ禍による客足の途絶えで自ら40年に及ぶ歴史に幕を下ろした。
全国紙の遊軍記者が言う。
「酔の助はドラマ『相棒』や『逃げるは恥だが役に立つ』などのロケ地としても知られ、全国から映画やドラマのファンが押しかける人気店だった。しかし、コロナ禍で店には閑古鳥が鳴き、固定費が払えないと苦渋の決断をしたという」
かくしてコロナは、「飲んでコミュニケーション」という居酒屋文化を大きく揺さぶっている。そんな厳しい時代に直面した居酒屋は、今後どうコロナショックを跳ねのけていくのか。
前出・ワタミの広報担当者が、その対策の一案をこう明かす。
「実のところワタミは撤退ばかりではなく、“脱・総合居酒屋”を打ち出して新たな店舗展開を進めている最中です。コロナで人々の外食スタイルが大きく変わり、その中でテイクアウトが伸びると判断。これまで7店舗だった『から揚げの天才』の出店を強化し、6〜7月で24店舗を展開する予定です」
このフランチャイズ展開にあたっては、「カラオケまねきねこ」などのカラオケ店556店舗を運営するコシダカグループ(東京都港区)ともタイアップするというから、ワタミの力の入れ方が分かる。
日本フードサービス協会調査では、4月の外食全体における売上高は、前年同月比60・4%と約4割減少し、調査開始以降、過去最高の下げ幅となった。
全国で緊急事態宣言は解除されたが、宴会の自粛や縮小化はしばらく続くことが予想される。この苦境を、新しい発想を含めどう乗りきるのか、経営者の手腕が問われそうだ。