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本好きのリビドー

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提供:週刊実話

 悦楽の1冊『「般若心経」を読む』 水上勉 中央文庫 780円(本体価格)

★訳や解釈を学び直し人間の性を見つめ直す

 ゴホンといえば龍角散、お経といえば般若心経。『西遊記』の物語でおなじみ、三蔵法師こと玄奘の手になる漢訳と伝わる“仏説魔訶般若波羅密多心経”=般若心経こそ、わが国で最も親近感のあるお経に相違なかろう。

 全文を暗誦できずともその中の“色即是空、空即是色”は、もはや殺し文句として例えばシェイクスピアの『ハムレット』を知らずとも“TO BE、OR NOT TO BE”の台詞に匹敵して、脳裏に刻み込まれたはず。文字数にしてわずか二百六十余、ゆっくり声に出しても三分未満、カップ麺が出来上がるより早く読めてしまうこの永遠の経典(特に最後は呪文のよう。またある人物への呼び掛けも含まれる)が何を意味するかを、執筆当時72歳の著者がまさに噛んで含めるように静かに説く本書。

 とはいえその筆致は、悟り澄ました脱俗の説法者が高みの境地から恵むがごときに非ず。棺桶作りの職人の家に生まれ、9歳で臨済宗の寺へ奉公に出された少年時代、口伝えで師僧から般若心経を教わる体験の回想から始まる、著者自身の生涯に密着して語る姿勢は甚だ懐疑的なのもの。

 室町の動乱を生きた一休、江戸時代の盤珪(正眼国師)といった先人による語句解釈を随時、本文中に引用紹介しつつも時にはそれに敢然と異を唱え、時には溜息交じり、時に嘆き時にはほのかな怒り(ここは『瞋り』と表記すべきか)すらにじませながら、最後の一句まで喰らいついてゆくさまが読む者をして思わず膝を正しめる。

 経文の吟味のみにとどまらず、広く日本仏教の負の歴史(いわゆる差別戒名の問題などその典型。やりきれない)にも厳しく向かう視線は初版刊行後40年の今なお、鋭さを失わない。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 読書家で知られるお笑い芸人のカズレーザーが、テレビで紹介しているのを見て読んだ1冊が『悩ましい国語辞典』(角川ソフィア文庫/1080円+税)だ。

 カズはテレビで「水族館」を何と読む? と尋ねていた。ほとんどの人は「すいぞくかん」と読むだろう。だが違う。では、何と読み、なぜ、そう読むのか? が、この本に解説されている。

 その他にも、平成以降に定着したと思っていた「まじ」という言葉が、実は江戸時代の小説ですでに使われていたこと。「スコップ」と「シャベル」はどちらが大きいかは、東日本と西日本では違うこと。「あばよ」の語源は、赤ちゃんの「アバアバ」…など、普段使っている言葉のウンチクがてんこ盛りだ。

 しかもこの本、国語辞典の体裁はとっているが、中身は愉快かつ知識が吸収できるエッセイだから、気楽に楽しめる。

 また、言葉は時代と共に変化してきた。前述の「まじ」も、昭和の時代は「ホントに」という言葉などを使っていたが、今では老若男女が「まじ」を使う。だが、「まじ」が定着するには何かしらの理由があったはず。本書は、そうした理由・エピソードなどにも果敢にツッコミを入れていく。

 著者は辞書編集歴37年の言葉のスペシャリスト。そのスペシャリストでさえ日々、言葉の使い方は「悩ましい」という。日本語は悩ましい。そして、悩ましいゆえに曖昧なまま使われているということに、痛いほど気付かされる。目からうろこが落ちる一冊。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 渡邉哲也
「新型コロナ恐慌」後の世界 徳間書店 1500円(本体価格)

★中国への責任を問う動きは強まる

――新型コロナウイルスは“人災”とのうわさもあります。実際はどうなのでしょうか?
渡邉 新型コロナウイルスについては、武漢の研究所で作られた、あるいは流出したといったうわさがありますが、実際のところは分かりません。ただ、中国がこのウイルスを“武器”として意図的に流出させたことはないでしょう。しかし、昨年末の段階で、武漢で新型肺炎が発生していたことを隠ぺいし、その報告をWHOに言っていなかったこと、また、武漢の封鎖が遅れ、春節で多くの中国人が内外に散っていき、世界中に感染を拡大させた点においては、明らかな人災といえます。

――アメリカと中国の対立が深まっていますね。経済戦争に発展してしまうのでしょうか?
渡邉 すでに米中貿易で経済戦争は始まっていましたが、今回のコロナ問題で、さらにそれが加速すると思われます。5月12日には共和党の上院議員が、中国政府がコロナ感染拡大について明確な説明を提供したと米大統領が承認できなければ、中国の資産凍結や米金融機関による中国企業への融資制限を行えるようにする法律案を提出しました。トランプ大統領が中国との断交を示唆する発言も伝えられています。今後は、中国への責任追及と、国際的な枠組みからの排除が進むでしょうね。

――日本の経済も急速に悪化しています。これからどうなってしまうのでしょうか?
渡邉 米国は中国を選ぶか米国を選ぶかという二者択一を同盟国や西側諸国に求めており、当然、日本としては米国側につかざるを得ません。中国と密接だった業界や企業ほど、苦しい状況に追い込まれていくでしょう。インバウンドや中国人相手に特化した観光などはかなり厳しくなると思います。また、ローテク分野における日本の中国への依存度が高すぎる問題も浮き彫りになっており、安全保障の観点から、一次産業の国内回帰が進められて行くと思います。

――新型コロナ後、世界はどのように変ると思いますか?
渡邉 中国への責任を問う動きは強まり、第一次世界大戦後にドイツから賠償を取るためにつくられたBIS(国際決済銀行)のような新たな国際機関が作られる可能性があります。グローバリズムは完全に終焉し、世界は“ブロック経済化”していきます。中国陣営と西欧諸国との冷戦構造が一段と鮮明になってくるでしょうね。韓国は中国陣営に行ってしまう可能性も高いと思います。
_(聞き手/程原ケン)

渡邉哲也(わたなべ・てつや)
作家・経済評論家。1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。欧米経済、韓国経済などの評論が話題となり、’09年、『本当にヤバイ! 欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告し大反響を呼んだ。

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