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森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」★マスク転売禁止は正しいか

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提供:週刊実話

 3月10日、政府は「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」を閣議決定し、マスクの転売を禁止した。違反すると、1年以下の懲役か百万円以下の罰金となる。政府は、「転売を目的とした購入が、品薄状態に拍車をかけている」として、マスク不足に歯止めをかけたい考えだ。

 確かに、マスクの転売というのは、人の不幸に付け込んだ火事場泥棒のようなもので、それを非難することは、感情的には十分理解できる。だが、転売禁止でマスクがすぐに手に入るようにはならないだろう。

 まず、需要全体からみれば、転売されているマスクの割合はごく小さいし、買い占めたマスクはすぐに売りに出されているのだから、マスクの供給全体が増えるわけではないからだ。

 問題は、高値で売りに出されるということへの反感なのだが、その点は、経済学的によく考えておく必要がある。

 これだけマスク不足が叫ばれているのに、なぜ供給があまり増えないかというと、マスクを作ろうという企業が出てこないからだ。マスクの製造自体は、それほど難しい技術が必要なわけではない。それなのに参入企業が少ないのは、企業側からしたら、製造機械の設備投資をしても、新型コロナが終息したら、途端にマスクが売れなくなり、大赤字になってしまうからだ。

 それでも、もし、マスクを完全な自由価格にして、高い値段で売ってもよいことにすれば、目先の利益に飛びつく企業がたくさん出てくるだろう。消費者は一時的に高いマスクを買う羽目になるが、それでも手に入らないよりましだ。そして、少し時間がたてば、製造会社の参入増で供給が増えるから、マスクの価格は元に戻っていく。

 実は、弾力的に価格を引き上げるというのは、ホテル業界ではアパホテルがすでにやっている。普段、数千円程度の部屋が、著名タレントのコンサートとか大規模イベントがあって需要が増える時期には、3万円近くまで思い切り料金を引き上げるのだ。ダイナミックプライシングという手法なのだが、アパはこのやり方で収益を拡大し、新しいホテルをどんどん建設した。

 もちろん、政府も供給を増やす努力はしている。マスクの製造設備に投資した場合には補助金を出しているのだ。ただ、その補助金は、3月中に設備の設置を終えないといけないなど、使い勝手の悪いものになっている。そうした補助金よりも、ずっと効果が高いのは、即時償却の導入だろう。設備投資をしても、経費になるのは、減価償却費だけだ。即時償却が認められれば、投資額全額をその年の経費にできる。これからマスク製造に乗り出すとすれば、短期間で採算を取らないといけない。だから、その実態に合わせて、投資を経費化すべきなのだ。

 即時償却を認めれば、利益が出すぎて困っている法人が、次々に投資に乗り出すだろう。投資額を全額経費にできれば、当面の利益が圧縮され、法人税を節税できるからだ。実際、東日本大震災のあと、太陽光発電設備に即時償却が認められ、参入する企業が爆発的に増えた実績がある。

 いま安倍総理が声高に叫ぶマスク転売禁止は、国民の感情に訴えるパフォーマンスにすぎない。誰か経済学の分かるブレーンはいないのだろうか。

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