学校の休校で、共働き世帯は子供をどうするのか混乱している。特に、貧困家庭で子供の食事を給食に頼っている家庭は深刻だ。本来であれば、感染者が出ていない地域で休校にする必要性はほぼない。それができないのは、全国でどれだけ感染が広がっているのかを調べる疫学調査を一切やっていないからだ。検査体制が整っていないと言われていたが、1日あたりの検査可能数は3800件で、実際の検査数は1000件にも満たないのだから、検査能力は大幅に余っている。また、韓国は1日で1万2000件以上の検査をしているのだから、できないはずがない。要するに政府は現実に目を向けることをかたくなに拒んでいるのだ。
また感染拡大を防ぐために学校だけを休校にするのは、筋が悪い。保育所や学童保育は休まないから、そこでの集団感染のリスクは残る。親は満員電車に乗って通勤を続けるのだから、親が感染すれば子供も感染してしまう。さらに、今回のウイルスは、子供の感染率が低く、致死率も低い。致死率が高いのは、明らかに高齢者だ。ところが、高齢者が通うデイサービスなどの施設は、通常営業を続けている。しかも、高齢者は風邪の症状や37・5度以上の熱が2日以上続く場合に受診しろ、というのが厚労省のガイドライン。政府には高齢者の死亡を抑制する意志がほとんど見られない。
一方で、子供のために仕事を休まざるを得ない労働者に対しては、支援制度を作ると総理は語った。しかし、これも雇用保険の加入者については雇用保険の資金を使う。一般会計が負担するのは、雇用保険の対象になっていない労働者のみ。しかも、フリーランスに対しては所得補償が行われない。つまり、制度を作っても、一般会計の負担はほとんどないのだ。
衆議院では、新型コロナ対策費を1円も含まない来年度予算が成立した。このことを考えると、首相決断の背後に財務省がいるのは確実である。財務省は、これだけの国難に直面して、いまだに財政出動を極力避けるというスタンスなのだ。
そのなかで、首相が今回の決断をした背景は、2つあったのではないか。1つは、東京五輪中止への懸念だ。もし、疫学調査をして、感染が広がっていることが分かると、IOCは確実に中止を決断する。五輪には巨額の利権が伴う。だから、現実から目をそらそうとしているのではないか。
もう1つの理由は、総理のパフォーマンスだ。桜を見る会や東京高検検事長の定年延長問題で首相への不信感は高まっている。実際、2月に行われた時事通信、朝日新聞、共同通信、日経新聞、産経新聞の5社の世論調査で、内閣不支持が支持を上回っている。強いリーダーシップを打ち出し、支持率を挽回するために、効果に疑問符のつく学校の一律休校などを打ち出すことは、消費税増税で失速した日本経済を奈落の底に転落させるだろう。安倍政権は、末期症状に陥ったとみて、間違いないだろう。