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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第361回 COVID―19による経済被害

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提供:週刊実話

 2020年2月27日、安倍晋三内閣総理大臣が第15回新型コロナウイルス感染症(以下、COVID―19)対策本部において、突然、
「全国すべての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うよう要請します」

 と、発言し、日本中がパニックになった。無論、小中高などを休校にするか否かの権限は、各自治体の教育委員会にあり、安倍総理大臣にはない。だからこその「要請」なのだが、総理が要請をしてしまうと、責任が各自治体に移転してしまう。自治体側が休校を拒否し、子供たちに感染が広がってしまうと、総理としては、
「自分は休校を要請したじゃないか」
 と、一切の責任を自治体に押し付けることが可能になるのだ。

 見事な責任転嫁ぶりだが、今回の総理の休校要請には、それ以外にも2つ、絶対に看過しえない問題があるため、指摘しておく。

(1)子供の感染率が異様に低いCOVID―19対策で、小中高を休校にする科学的根拠がない。また、実際に感染が発生している自治体はともかく、なぜ「全国一律」なのか。

(2)全国一律休校「要請」は、日本人の自粛モードに拍車をかけ、休校する子供たちの両親や学校関連ビジネスを展開する事業者の所得を激減させる。

 2月29日に記者会見した安倍総理は、小中高休校の理由として、
「今からの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきである。そのように判断いたしました」

 と説明したが、ならばむしろ子供たちより感染率が高い「大人」が集まることを防がなければならないはずだ。すなわち、企業活動における2週間の臨時休業である。学校で子供たちが感染するよりも、オフィスで我々が感染する確率の方が間違いなく高い。特に、満員電車での通勤をやめさせる必要がある。

 総理はなぜ、2週間のオフィス閉鎖を「要請」しないのだろううか。「あらゆる手を尽くす」のではないのか。

 また、自粛要請で被害を受ける親世代や事業者については、
「2700億円を超える今年度予備費を活用し、第2弾となる緊急対応策を今後10日程度のうちに速やかに取りまとめます」

 と、語ったのみ。今回の非常事態において、予備費を使うのは当たり前だが、予想通り、肝心の国債発行+財政支出という「普通の対策」には言及しなかった。これは、大変な事態になる。

 例えば、滋賀県内の全19市町に200〜300品目の食材を納品する「嶋林食品センター」(栗東市)は、休校による損害額が約5000万円にも上るとのことである(’20年2月29日付けの京都新聞〈突然の休校、給食業者に衝撃「涙止まらない」国に補償要求へ 発注済み2万食どうなる〉より)。日本中の「学校」という市場でビジネスを展開していた事業者が、嶋林食品センター同様に大損害を被る。どう考えても、政府による「補償」が必要だ。

 ところが、本稿執筆時点で判明しているのは、仕事を休まざるを得なくなった両親世代に対する補償が「企業が給与を全額支払い、その一部(最大8330円)を政府が補償する」という、企業に負担を求める休業補償、及び事業者等に対する「融資」のみ。政府の一方的な判断で巨額のビジネスを失った我々企業経営者は、補償を受けるどころか「借金を増やせ」と言われてるわけだ。

 ’20年3月4日現在、日本は’19年10月の消費税増税により民需が激減した状況で、COVID―19アウトブレイクによるイベント自粛、インバウンド激減、そして臨時休校と、悪夢のような事態が連続している。今回の「非常事態」により、どれほどの経済被害、特に「消費縮小」が発生するのか、シミュレートしてみよう。

 ’11年、東日本大震災の年、我が国の消費(※帰属家賃を除く民間最終消費支出)は、名目値で1.37%、実質値で0.91%減った。ちなみに、なぜ「帰属家賃」を除くかといえば、実際には支払われない架空家賃を含めても意味がないためだ。

 COVID―19による一連の打撃により、日本の消費(帰属家賃を除く)は何パーセント減るのか。東日本大震災の際とは異なり、COVID―19は「全国が被災地」で、かつ小中高の全国一律休校の影響がある。

 さらに’19年10月の消費税増税の影響で、’19年10〜12月期のGDPは「名目値」でも減ってしまった。つまりは、購買力が縮小した日本国民が、支払う金額を減らしているタイミングで「COVID―19」襲来。どう考えても、’11年の2倍の消費被害はあると考えるべきだ。

 というわけで、名目値2.7%の「支出減少」があると想定すると、縮小する消費の金額は約6.7兆円(!)。物価はわずかながらプラス化しているため、実質はさらに落ち込む。

 まさに「アベ・ショック」であるが、それにしても総理はなぜ日本の国民経済が打撃を受けることが明らかな小中高全国一律休校要請を決めたのだろうか。

 実は、2月26日にIOCが東京五輪について「五月中に判断」と表明し、五輪が開催できない可能性が現実味を帯びた。「何かしなければ」と焦った総理に、今井尚哉首相補佐官らが全国一斉休校を献策し、萩生田文科大臣、菅官房長官、事務方の官僚らの反対を押し切り、決定されたのである。

 たかだか一官僚(今井補佐官)の「ひらめいた!」アイデアが総理の耳元に吹き込まれ、日本国民はすさまじい経済被害を受ける羽目になったわけだ。特に、学校関連ビジネスの事業者は、それこそ「人生が変わる」レベルの所得激減に見舞われることになる。それにも関わらず、日本政府は事業者の損害を補償はしない。

 これが、現在の日本国なのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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