そのなかで西武鉄道は、1人の男に再生を託した。経営破綻寸前だったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を、ディズニーランドと並ぶテーマパークによみがえらせた森岡毅氏だ。
森岡氏はUSJで、スタッフにゾンビの扮装をさせて、入園者を追いかけ回すことから始めた。アトラクションの改装資金もない経営状況だったからだ。しかし、この企画が若い女性に受け、SNSを通じてUSJの評判が高まった。続けて森岡氏が取り組んだのは、ジェットコースターを後ろ向きに走らせることで恐怖感を高めることだった。カネをかけない改革だ。
そうして入場者数が増え、資金に余裕が出てくると、森岡氏は流行りものに乗る戦略に出た。ハリウッドの街並みの再現という当初のコンセプトを捨て、ハローキティからエヴァンゲリオンまで、何でも採り入れて、さらなる収益拡大を図ったのだ。その収益で作り上げたのが念願のハリーポッターの施設だった。これでUSJの経営は盤石となった。
西武園ゆうえんちは、破綻寸前だったUSJの初期状態とよく似ているが、再生資金が100億円あるだけマシかもしれない。ただ、決して十分ではない。USJのハリーポッターエリアの投資額は、450億円に及んでいるからだ。
しかし、私は森岡氏が再び奇跡を起こす可能性が高いと考える。彼の綿密なデータ分析に基づくマーケティング力だけでなく、追い詰められるほど輝く驚異の発想力に期待したい。
私はUSJのテレビ取材の際に森岡氏と接点があったので、西武鉄道の記者発表後、すぐ彼にメールを出した。返事はすぐにきた。
〈正直、このプロジェクトは最初から難易度は高いです。しかし、だからこそ我々は挑戦することにしました。日本人がこのハードルを飛ばなくなってから日本は停滞を続けているように思うからです〉
〈日本人の心の琴線に触れる1960年代の世界観を使って『幸せ』を売る構造で勝負しようと考えました。今ある老朽化した遊具を代えるのではなく、ゲストの文脈を変えることで、古さを逆に活かして価値に変える戦略です〉
施設の古さという弱点を逆手にとって、新たな価値を創造していく。いま森岡氏がやろうとしている挑戦は、閉塞感につつまれる日本経済に一筋の光明を与えるものになるのではないか。
私は森岡氏に、私自身が新所沢で運営する54年間のコレクションを展示する私設博物館、B宝館を一度見に来て欲しいと要請した。森岡氏は快諾してくれた。森岡氏のビジネスに乗っかりたいのではない。森岡氏なら、きっとヒントになるものをつかんで、西武園ゆうえんちの再生に活かしてくれると思うからだ。