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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第356回 新型肺炎と「国家の意義」

 グローバリズムとは、政策的には「小さな政府」を目指す思想だ。国家の予算を減らし、規制やルール、国境といった「国家の関与」も縮小する。国境を越えたモノ、ヒト、サービス、カネの移動も「自由」にすることが「善である」と考えるドグマ(教義)である。

 政策的には、緊縮財政、規制緩和、自由貿易(※国境管理の緩和)を三位一体で進める。すなわち、グローバリズムのトリニティ(三位一体)だ。

 日本は、大東亜戦争に敗北して以降、政府を否定し、日本国家をも否定する「戦後平和主義派」と、自らの利益最大化のために「市場に対する政府の関与」を嫌うビジネス界と、両勢力から挟み撃ちされる形で「グローバリズム」を押し付けられてきた。特に、1997年の橋本政権以降、我が国では緊縮財政、つまりは「政府の予算を削る」ことが基本方針となった。「国の借金で破綻する」なる荒唐無稽な財政破綻論が蔓延し、結果的に、
「政府はもはや国民を守るために予算を使うことはできない」

 というレトリックまでもが普通に使われるようになり、公共サービスの民営化や規制緩和が進む。さらには、規制緩和は「外国」にも適用され、国内の生産者は「国境を越えた価格競争」を強いられ、ひたすら疲弊していった。国民は、果てしなく続くデフレーションの中で貧困化し、観光旅行すら以前のように気軽に行けなくなってしまった。

 そのタイミングで登場したのが「インバウンド」だ。すなわち、外国人観光客「様」の落とすカネを当てにして、観光業を活性化させようという「発展途上国型成長戦略」である。しかも、メインターゲットがよりにもよって中国人。

 2019年、日本を訪れた中国人は1000万人近くに達した。

 この状況で、中国で新型コロナウイルス感染症が流行。中国共産党は、発症源と思われる人口1100万人の武漢市、および湖北省を事実上「封鎖」。公共交通機関をストップするのはもちろん、道路も土砂やトレーラーなどのバリケードで使用不可能とする念の入れようだ。

 新型コロナウイルスの流行を受け、世界各国は自国の国民を守るために様々な「具体的な措置」を採った。

 北朝鮮は中国からの渡航者の入国を禁止。アメリカは、武漢からの渡航者の入国を5つの空港に制限し、さらに渡航者全員を検査(それでも、約2週間という潜伏期間を考えると、苦しいところだが)。台湾は湖北省に居住地がある中国人の入国を拒否。フィリピンはウイルスの潜伏期間を考慮し、武漢から中部カリボ空港に到着した便の乗客約500人の送還を決定。さらに、香港までもが中国湖北省の居住者、および過去14日間に同省を訪れた中国人の入境を禁止した。

 そして、我が国は例によって「何もしない」。何しろ、緊縮財政という国家の店じまいの真っ最中であるため、「国民を守るために行動する=支出する」ことができない。

 1月28日、厚生労働省は、奈良県在住の日本人バス運転手、60代男性が新型コロナウイルスに感染していることを明らかにした。男性は、武漢への渡航歴がなく、間違いなく日本国内における「ヒト・ヒト感染」だ。

 男性の行動歴を見ると、1月8〜11日、さらに1月12〜16日と、2度に渡り武漢からのツアー客を、運転手としてバスに乗せている。武漢から来日した中国人から感染したと考えて間違いない。

 日本政府は「諸外国に倣い」中国人の入国禁止と、滞在している中国人の帰国措置を採るべきだ。日本政府が日本国民の「人権」「安全」「生命」を重んじるならば。

 ところが、我が国は動かない。せめて、アメリカ並みの「渡航者全員検査」程度はするべきだが、結局は何もしない(飛行機の中で、自己申告を求めるだけだ)。我々は、自然災害はもちろん、「死の可能性がある感染症の蔓延」に対してまで自己責任、自己防衛を迫られている。

 まさに、国家の店じまい。

 まさかとは思うが、中国人観光客による「インバウンドの経済効果」とやらを惜しんでいるわけではあるまい。カネのために、国民を平気で危険にさらすような政府では「まだ、ない」と信じたいところである。

 ところで、日本政府は武漢に取り残された日本人を帰国させるため、チャーター機を派遣した。その際の外務省の説明ページ「湖北省に在留している邦人のみなさまへ(帰国希望者調査)」に、
「注意点(5)帰国に際して費用が発生することが想定されます」

 とあったため、嫌な予感がしていた。チャーター便を手配する以上、費用が発生するのは当たり前だ。外務省のホームページの書き方では、あたかも「帰国者が自己負担を強いられる」ように読めてしまったのだ。

 国民を救うのは、政府の義務だ。その際に「カネ」の話は、これまた「まさか」持ち出すことはあるまいと信じたかった。だが、現実はその「まさか」であった。

 1月28日、政府は中国湖北省からチャーター機で帰国する「日本国民」に対し、片道分の正規のエコノミー料金(約8万円)を請求する方針を明らかにした。ということは、カネを払えない国民は、戻ろうにも戻れないということになってしまう。

 料金を請求するということは、「帰国できるかできないかは、カネ次第」であることを、政府自ら宣言したのも同然だ。恐ろしい国である。

 結局、グローバリズムに毒され、小さな政府を尊び、「政府の役割を小さくする」ことを善として構造を改革してきた国家のなれの果てが、現在の日本国なのである。すでに、日本政府は「外国で困窮している日本国民は、無条件で助けなければならない」という、国家の原則すら忘れてしまっている。

 筆者は中国人の人権や「インバウンド」とやらの経済効果、あるいは「チャーター便の費用」よりも、「日本国民」の安全が優先される政府を望む。現在の日本国は、「自らの同胞を守る」という点では、中国人を入国禁止とした「あの」北朝鮮にすら劣るのだ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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