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特選映画情報『37セカンズ』〜“性の部分”も赤裸々に…障がい者女性の本音がリアル!

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提供:週刊実話

配給/エレファントハウス 新宿ピカデリーほかにて公開
監督/HIKARI
出演/佳山明、神野三鈴、大東俊介、渡辺真起子、板谷由夏ほか

 身体に障がいがある若い女性の生き方を、実際に障がいがある演技経験のない佳山明が演じる…そこまでならまだ驚かないが、“性の部分”も赤裸々に描いていることに驚嘆し、感服した。障がい者を扱った映画では、彼らの“性”についての描写はスルーされることがほとんど。近年では、男性障がい者のためのデリヘルを題材にした『暗闇から手をのばせ』(13年)や、ろう者の若い女性同性愛カップルを描いた『虹色の朝が来るまで』(19年)があるくらいか。

 障がいを持つ23歳のユマ(佳山明)。シングルマザーの母親・恭子(神野美鈴)は過剰に彼女の世話をやき、少し疎ましい。ユマは親友の漫画家・SAYAKA(萩原みのり)のゴーストライターとして暮らす日々。何とか自作を、と思い立ち、アダルト誌に原稿を持ち込むが、編集長の藤本(板谷由夏)に「作品はいいけど、性の経験がないのでリアルさに欠ける」と言われ、意を決し歓楽街へ…。

 冒頭、ユマが母親に浴室で体を洗ってもらうシーンがあるが、2人ともヌードを隠さない。カメラは自然体で乳房も映してゆく。ここに製作側の決意を感じた。HIKARI監督はアメリカで才能を開花させた新人で、「健常者が障がい者を演じる違和感を覚えた」ことが佳山の起用につながったそうだ。さらに踏み込んで、歓楽街で“男娼”を3万円で買うシーンまで描く。ここでもヒロインは乳房を露出する。そういうシーンだもの当然でしょ、と監督は言いたげだ。

 さらに感心したのは、この“男娼”も含め、歓楽街の人々が活写され、いわゆる“風俗”に対する偏見はないこと。障がい者中心のサービスを行うデリヘル嬢、電動車椅子を自在に操る障がい者、心ある介護福祉師などと交流するうち、ヒロインに自我と自立が芽生えてくる。特に、個性派女優・渡辺真起子が、ヒロインに精神的影響を与えるデリヘル嬢を演じて、痛快かつ素晴らしい。ちょっと感動もの。クライマックスは、タイに飛ぶスケールも見事で、新たな感動を生む。そして、憎まれ役かと最初思った女性編集長も“愛ある厳しさ”の人物として描かれ、著名女優・板谷由夏を起用しただけのことはある。この女性編集長は監督の分身ではないのか。

 ちなみに題名の“37seconds”は、ヒロインが生まれたとき、37秒間息をしていなかったため障がいが引き起こされた、という設定。“ハンデに負けず、恐れず生きる”という高尚なテーマを説得力あるものにするためには、この作品が正面から向き合ったように“性のリアル”も必要なのだ、と意を強くした。
 《映画評論家・秋本鉄次》

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