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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第355回 狂気のシミュレーション

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提供:週刊実話

 安倍政権は、現在もプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化の目標を掲げたままだ。

 ここで、地球上で生きている限り、誰も逃れられない国民経済の原則を2つ、ご紹介しよう。

(1)国内総生産(GDP)=民間支出+政府支出+純輸出(※輸出-輸入)

(2)国内民間収支+国内政府収支+海外収支=0

 経済成長とは、GDPが増えることである。民間、政府、海外のいずれかが支出(消費+投資)を増やせば100%、GDPは増える。逆に、いずれかが支出を絞り込めば、これまた100%、GDPは減る。

 PB黒字化とは、(2)の政府収支を黒字化するという意味である。(2)の式から、政府が収支を黒字化するためには、他の2つ(民間もしくは海外)の収支を赤字化させるか、もしくは黒字を減らす必要があることが分かる。

 内閣府は、1月17日に中長期の財政試算のシミュレーションを公表した。シミュレーションでは「成長実現ケース」であっても、目標年度である2025年にPB赤字が3.6兆円となり、マスコミは例により「財政健全化へ多難な道のり アベノミクスに陰り」(産経新聞)、「財政黒字化、道険しく 社会保障改革が急務―政府」(時事通信)と報道して、’25年にPB黒字化「できない」ことを問題視しているが、話はまるで異なる。

 (2)の式から、政府の赤字を削減すると、(※海外収支変化なしの場合)民間の黒字は間違いなく減少する。「コインの表の反対側は、裏です」と言っているのと同じだ。国民を貧困化させるPB黒字化という政策を懸命に推進し、目標達成が遅れると嘆くのが、我が国のマスコミであり、政治家なのだ。

 図は、内閣府のシミュレーションについて、PB、民間の収支、海外の収支をグラフ化したものだ。PBは左軸で「兆円」という金額、民間収支と海外収支は右軸で対GDP比%である。

 図の通り、目標年度の’25年であっても、PBは3.6兆円の赤字。「だから大変だ」と、大騒ぎしているのがマスコミや政治家だが、問題はそこではない。

 (2)の式から、政府がPB赤字を縮小する時点で、民間もしくは海外は、必ず黒字が減るか、赤字が拡大することになる。内閣府は相変わらず、海外収支の赤字(=日本の経常収支黒字)に過大な期待をしているが、さすがに対GDP比4%以上の経常収支黒字が「継続的に膨張する」と想定するのは無理があったようで、最大で対GDP比3.9%という前提になっている。海外収支の赤字が「(きわめて高い赤字水準で)ほぼ一定」という想定になっているのだ。

 となると、(2)の式から、「政府のPBを黒字化させるには、民間の黒字を減らさなければならない」となってしまい、実際に民間収支は’19年の対GDP比6.6%から、’29年には2.3%に減らされる。

 そして、現在の「グローバリズム」に基づく企業優先のプライオリティを考える限り、「民間の黒字減少」の主役が「家計」になることは明らかなのだ。

 つまりは、社会保障支出のカット、社会保障負担の引き上げ、さらには消費税増税など、家計を貧困化させる政策が今後も続くことにならざるを得ない。

 実際、安倍政権はすでに昨年秋に「全世代型社会保障検討会議」を立ち上げ、社会保障支出削減と負担増の検討を始めている。とはいえ、消費税増税、社会保障負担増、社会保障支出削減は、すべて「デフレ化政策」だ。デフレの国は、過去20年の我が国が証明した通り、経済成長できない。

 GDP成長率が低迷すると、税収は増えない。GDPとは「生産」「支出」「所得」の総計であり、生産面のGDP、支出面のGDP、(所得の)分配面のGDPはすべてイコールになる。我々は所得から税金を支払うため、GDPが増えなければ、税収も伸び悩む。

 となると、PB黒字化目標が達成できなくなってしまうため、何と内閣府は「デフレ化政策」を推進するにも関わらず、日本がデフレから脱却し、GDPデフレーターベースのインフレ率が1.5%程度で推移し、名目GDPが「3.5%」で成長を続けるとシミュレートしているのだ。

 安倍政権の緊縮財政は、政府と民間の支出を共に減らす。政府と民間が支出を減らせば、(1)から「GDPは成長しない」という結論にならざるを得ないが、それでは困る。というわけで、内閣府は我が国が「バブル期並み」の成長を遂げるという「設定」にしているのである。

 ちなみに、名目GDP3%成長とは、別に高くはない。日本は、普通に達成可能だ。ただし、そのためには当然の話として、デフレ脱却を果たさなければならない。

 そして、デフレ脱却のためには「減税」「社会保障負担引き下げ」「社会保障支出の拡大」など、需要を拡大する政策を打たなければならない。ところが現実には、安倍政権は社会保障支出の削減や負担増を着々と進めている。

 つまり、我々「家計」は、政府の政策により「収支の赤字化」と「支出の拡大」を同時に行うことを求められているわけだ。となると、方法は一つしかない。安倍政権は国民に、
「家計は借金を増やし、支出を拡大し、政府のPB黒字化と経済成長に貢献しろ」
 と言っているのである。何しろ、他に解釈のしようがない。

 国民に「赤字化しろ」「借金を増やせ」「それでも支出を拡大しろ」と主張しているPB黒字化目標や内閣府のシミュレーション。しかも、それ自体が問題視されるのではなく、
「内閣府のシミュレーションでは、成長実現ケースでも’25年度のPB黒字化目標が達成できない」
 と、マスコミや政治家が大騒ぎ。国民はさらなる貧困化、赤字化、負債拡大を「政策」により強いられる。

 狂った国家、としか表現のしようがないのである。

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