世界経済を失速に追い込んだ米中貿易戦争は、今回の合意をきっかけに終結に向けて動き出すのか。私は、そうはならないと思う。この合意は、トランプ大統領が大統領選をにらんで打ち出した「休戦協定」にすぎないからだ。
報道によると、今回の合意は、農産品、食料品、知的財産権、技術移転、金融サービス、為替、貿易拡大、紛争処理など9項目にわたる幅広いものになっている。しかし、そんな合意がなされたのであれば、制裁関税の緩和が第4弾の部分に限られているのはおかしい。今回の合意では、米国が中国に課している第1弾から第3弾の2500億ドル分の中国製品への制裁関税は、25%のまま維持されることになっているのだ。
おそらく今回の交渉の焦点は、選挙を控えたトランプ大統領が、制裁関税の引き下げと引き換えに、米国産農産物の購入拡大を中国に迫るという構図だったのだろう。トランプ大統領の大票田は農村部だからだ。しかし、取引がうまく行ったとは言えない。
米国政府は、中国が米国から年間500億ドル(5兆5000億円)規模の農産品を購入すると約束したと発表したが、中国政府は、米国産農産物の輸入拡大は認めたものの、金額の約束はしていないと主張している。例えば、航空機であれば、中国政府の意向で何機購入するという話ができるが、米国産農産物をいくら輸入するか決めるのは、中国内の消費者なのだから、金額は約束していないという中国側の主張のほうが正しいと思われる。
また、スマホへの制裁関税を見送ったのも、トランプ大統領側の都合によるものかもしれない。スマホに関税を課すと、中国で製造されているiPhoneの値段が上がって、大統領選で不利になるからだ。
トランプ大統領は、今回の合意を受けて、すぐに第2弾の合意に向けた交渉を開始するとしているが、結論はあせらないだろう。大統領選まで、米中貿易戦争を休戦し、必要なら、小出しの合意を続けていけばよいからだ。
以前、本稿でも指摘したが、トランプ大統領が中国に要求しているのは、5Gや人工知能、宇宙開発といった最先端分野からの撤退。先端分野はアメリカの牙城だから、中国は手を出すなというのだ。一方、中国はそうした先端分野を国の中心産業にしようというメイドインチャイナ2025という国家計画を掲げているから、お互い妥協の余地はまったくない。
おそらく米中貿易戦争は、トランプ氏が大統領を続けている限り終わらない。終結するのは、トランプ大統領が退任するときだ。
私は、意外にそれが早く来るかもしれないと考えている。過去最高値を更新し続けている米国の株価は、明らかにバブルだ。それが崩壊すれば、株高を背景に支持を集めてきたトランプ大統領が、’20年11月の大統領選挙で落選することが十分ありうるからだ。