それにしても'05年11月に「西武再建」でタッグを組み、第三者割当増資などで総額1300億円を投入したサーベラスと西武HDの間に、なぜ深刻な亀裂が生じたのか。
「意外に思うかも知れませんが、早期の再上場という点では双方の考えは一致している。ただ、投資ファンドである以上、サーベラスは投資マネー回収の出口戦略を急ぐ必要がある。それもボロ儲けすればするほど出資者に多く還元できるため、2000円から2500円のIPO価格を想定しており、証券会社が試算した金額との隔たりは大きい。ところが西武はさえない業績が続き、やっと上向いたと思った途端に大震災の影響で大幅減益に陥った。これにシビレを切らせたサーベラスが『もう現体制に舵取りを任せられない』とばかり、揺さぶり攻勢に転じたのです」(金融情報筋)
サーベラスが標的に据えたのは西武HDの後藤高志社長。西武のメーンバンクであるみずほコーポレート銀行副頭取から“片道キップ”、即ち退路を断って送り込まれた経歴の持ち主だが、皮肉にも「義明さんが失脚した今、“ミニ義明”と呼ばれるほど偉くなり、西武と心中の覚悟だった当初とは別人になった」(同)と陰口されている。それなのに肝心の業績はパッとせず、再上場も道半ばとなれば、一刻も早くできるだけ多額の投資マネーを回収したいサーベラスが「経営者失格」の烙印を押して引きずり下ろしを画策しないわけがない。
現在進行形の敵対的TOBは、そのためのステップにほかならず、サーベラスは6月総会で五味廣文・元金融庁長官、生田正治・元日本郵政公社総裁、白川祐司・あおぞら銀行取締役の3人を役員に迎えるよう求めている。まだ“後藤外し”までは踏み込んでいないが、市場には「株主総会で経営陣の一掃を狙っている。経営権を奪取した後、IPO価格が高くなるよう大胆なリストラを断行し、上場後に一気に売り抜ける魂胆だろう」との観測が広まっているのだ。
そんな事態になれば、シーズン中であろうと西武ライオンズの身売り話が現実味を増す。「それこそ行きがけの駄賃みたいなもの。高く売れれば、その分サーベラスの懐が潤うのだから躊躇などしません。いよいよハゲタカファンドの本領発揮です」(地場証券マン)
風雲急を告げているのは何もライオンズ球団だけではない。今、東京・紀尾井町の赤坂プリンスホテル再開発事業が進行中だが、約1000億円といわれるこのビッグプロジェクトを「サーベラスがソックリ引き継ぎ、マネー錬金術の総仕上げを狙うのでは」との観測さえ飛び交っている。
王国、落城寸前である。