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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 超々格差社会の到来

 7月10日に投開票された参議院選挙は、改憲勢力が議席の3分の2を獲得するほどの与党圧勝に終わった。野党は憲法改正のリスクを必死に訴えたが、憲法問題は大きな争点にならなかった。理由は、国民の一番の関心が、日々の暮らしだったからだ。
 その点で、最大野党の民進党は、戦わずして敗れたのだと思っている。与党が消費税引き上げを2年半凍結するとしたのに対して、民進党は2年だけだったからだ。
 つまり民進党は、消費税率の引き上げに、より積極的ということになってしまったのだから、それで選挙に勝てるはずがない。消費税引き上げを完全凍結すると主張した日本共産党や、おおさか維新の会は、議席を伸ばしている一方で、民進党は、またしても経済政策で失敗したことになる。

 それに対し安倍政権は、今回の選挙結果を受けて、衆議院の解散総選挙をにらみながら、景気対策に打って出るだろう。
 ひとつは、公共投資を中心とする大型の財政出動だ。本来であれば、消費税率を5%に戻して国民全体に恩恵を与えるのが一番効果が大きいのだが、消費減税は利権を生まない。公共事業を打つというのは、何十年も続いている自民党の伝統だ。しかし、もちろん、その財源はないのだから、国債増発ということになる。そこで出てくるのが、金融緩和という第二の景気対策だ。新規発行した国債は、日銀が買い取るのだ。

 いまの日本経済が低迷している理由は、イギリスのEU離脱をきっかけに、円高・株安が続いているからだ。しかし、日銀が追加の量的金融緩和を断行すれば、それは簡単に解消できる。それができずにきたのは、昨年末のアメリカのゼロ金利解除以降、アメリカ経済が低迷したため、アメリカが日本の金融緩和を許さなかったからだろう。
 しかし、改憲勢力が3分の2の議席を獲得したことで、憲法9条改正が可能になった。改正すれば、米軍の支援部隊として、自衛隊をいつでも、世界中どこへでも派遣できるようになる。だから安倍政権は、憲法9条改正と引き換えに、金融緩和の理解をアメリカから取り付けることができるだろう。この財政出動・金融緩和によって、日本の景気は今秋以降改善していくとみられる。

 ただし、景気拡大で国民生活がよくなるのかと言えば、そうではない。
 すでに実質賃金は、5年連続で下がっている。今後景気が良くなれば、賃金が上がりだすという見方もあるが、それでは企業の人件費負担が増えてしまう。そこで安倍政権が導入してくるとみられるのが、ホワイトカラー・エグゼンプションだ。
 「報酬を成果で決める」というこの制度を導入すれば、景気拡大に伴う人手不足は、すでに雇っている従業員を長時間労働させることで補える。
 しかも、この制度の下では残業代を支払う必要がないから、企業にとってはむしろ時間当たりの労働コストを下げることができる。さらに次の段階で、政府は金銭解雇制度の導入も進めてくるだろう。
 長時間労働で従業員が体を壊したら、100万円程度の手切れ金で切り捨てる。これが、いまの日本が向かっている近未来の姿だ。

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