そもそも政治家がたまに使う「記憶にございません」の言葉が、“本当にそうだったら?”というアイデアからして三谷幸喜監督っぽい。まず、中井貴一さんの内閣総理大臣としての演技に注目してほしいです。記憶をなくす前の傲慢さが丸出しで最も嫌われる総理の態度と、記憶をなくした後のとても優しいおじさんの豹変ぶり、これが見事! 熱血秘書官を演じる小池栄子さんの熱さと冷たさ、奥さんを演じる石田ゆり子さんのちょっとした面白い場面など、すべてがクスッとする笑いからの爆笑コースです。
いろんな役者さんが登場する中、ディーン・フジオカさん演じる総理の怪しい秘書官が一番難しかったのでは? トボケたりとかではなく、こんな面白い人たちの中で冷静でいることが面白く、いかにも本当にいそうな感じ。その中でも私のヒットは、木村佳乃さん演じるアメリカ初の日系女性大統領。声の低さや仕草など、まるで『ロック・オブ・エイジズ』のキャサリン・ゼタ=ジョーンズ!
今回、三谷監督は当て書き、つまり役者を浮かべながら台本を書いたそうですが、役者さんのイメージそのものではなく、“こんな中井貴一が見てみたい”との気持ちで書いたとか。確かに「こんな中井貴一が見たかった!」と思ってしまいます。三谷監督、やったね!
国民に、総理が記憶をなくしたなんてバレたら大変! それを側近、特に総理の家族がどう対応するのかが面白い。総理、奥さん、そして息子さんのディナーのシーンが大好き。家族は総理の、いいえ、家族の大黒柱のお父さんの状況を知らないから、会話のキャッチボールが気持ちいいほど笑えます。
このストーリーを聞いて気になる、そして大事なオチですが、これがまた、なるほどの納得。あなたは食欲の秋? 芸術の秋? そして、毎日が映画日和! 劇場でみんなで笑うのが、映画の素晴らしいところ。行ってらっしゃ〜い!
画像提供元:(c)2019 フジテレビ 東宝
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■記憶にございません!
脚本・監督/三谷幸喜 出演/中井貴一、ディーン・フジオカ、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、小池栄子、斉藤由貴、木村佳乃、吉田羊ほか 配給/東宝 9月13日(金)より全国東宝系にて公開。
■国民から史上最悪と呼ばれた総理大臣の黒田啓介(中井貴一)は、演説中に一般市民の投げた石が頭に当たり、一切の記憶をなくしてしまう。息子の名前すらも分からなくなってしまった啓介は、悪徳政治家から善良なおじさんに変貌。国政の混乱を避けるため、記憶喪失になったことを国民や家族に知らせず、3人の秘書官たちのサポートにより、なんとか日々の公務をこなしていった。そんな中、アメリカの大統領が来日する。
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LiLiCo:映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS「大様のブランチ」「水曜プレミア」、CX「ノンストップ」などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。