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泡立つ! サッポロビールの反撃 国税の“落とし前”は酒税一本化

 サッポロビールが国税当局に対し、既に納めた酒税115億円の返還を求めたことが新たな波紋を呼びそうだ。
 かねて政府・与党はビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の税率一本化を画策してきた。ところがサッポロの“反撃”に政府=国税が態度を硬化させれば「数年間の猶予期間を置くとのソフトランディング戦略を改め、税率引き上げを急加速させかねない」と関係者は警戒する。ビールに比べて安さが魅力である第3のビールや発泡酒ファンには悩ましい問題だ。

 事は昨年の6月にさかのぼる。サッポロは第3のビールとして販売していた『極ZERO(ゼロ)』について、国税当局から「税率の低い第3のビールにあたらない可能性がある」と指摘され、高い税率との差額を納めた上で販売を中止、製法を変えて7月15日から発泡酒として再販売した。酒税は350ml缶換算で第3のビールが28円、発泡酒が47円、ビールが77円と麦芽の使用量などで違いがある。
 サッポロが2013年6月から発売した極ZEROは、痛風の原因とされるプリン体ゼロ、糖質ゼロの“ゼロゼロ商品”として注目を浴び、「世界初」の宣伝効果もあって予想を大きく上回るヒット商品に躍り出た。これに飛びついたのが国税当局だ。第3のビールに該当しないと判断した場合はビールと同じ77円の税金を納める必要があるとサッポロをけん制、これに恐れをなした同社は「当局からの指摘ではなく、自主的な判断」(尾賀真城社長)と当局に最大級の配慮を示しながら第3のビールほど縛りが厳しくない発泡酒に区分を変更、酒税の不足分115億円を追加納税した。要は国税から「第3のビールとは到底思えない」とけん制球を投げられ、真っ青になってベラ棒に高い“保険金”を支払わされたのだ。

 ところが、ここへ来て事態は一変する。社内調査で第3のビールとしての製法を逸脱していないことが判明、昨年8月までに納めた115億円の返還を求めたのだ。一企業が国税によるテイのいい“ブラフ”に屈して納めた税金の返還を申請するのは極めて異例である。
 「いったん、怪しいと目を付けた国税が簡単に自分の非を認めるわけがない。製法をトコトン検証し、サッポロが悲鳴を上げて『やはり、第3のビールではなかった』と追い込むシナリオは十分あり得ます。逆に国税がアッサリ白旗を掲げればサッポロは万々歳ですが、簡単にそれを許すほど政府・与党は甘くない。むしろ、どうすればビール業界=国民からタップリ税金を吸い上げられるかに知恵を絞るに決まっています」(経済記者)

 1月14日に閣議決定した2015年度税制改革大綱は、ビール類に対する酒税の見直しを見送った。しかし政府・与党には今年の夏までに具体的な税率見直しを決める動きがある。検討されているのは「ビールの税率を下げる代わり、発泡酒と第3のビールは税率を上げる。一応、3区分は残るが、将来的には全ての税率を55円(350ml缶換算)で一本化するシナリオが浮上している」(情報筋)という。
 現在、3区分されているビール類の税率が55円で統一されれば、消費者は割安感をアピールするビールに殺到し、発泡酒や第3のビールは見向きもされなくなる。結果、ビールの販売比率が相対的に高いアサヒやサッポロには追い風となる半面、発泡酒や第3のビールに活路を求めてきたキリン、サントリーは一転して逆風にさらされる図式だ。

 政府・与党による税制見直しをプッシュしているのは、ビール類の市場が先細りしていることが大きい。昨年のビール類出荷量は10年連続で前年を下回った。若年層のビール離れが加速していることから、ピーク時(1994年)に比べ4分の3まで減っている。安さが魅力の第3のビールも'03年に発売して以来、初めて前年を下回った。そこへサッポロに対する国税の厳しいスタンスに象徴される追い打ちが加われば、各社は及び腰になり、結果として第3のビール市場は縮小する。
 「実を言うと国税は、サッポロが『納めた税金を返せ』と声を上げたことに戸惑いを隠さない。民間企業が一度は当局にひれ伏したにもかかわらず、後になって正面から異を唱えたこと自体、全くの想定外だったのです。国税のメンツがかかっているため『売られたケンカは買って出る』の姿勢に転じたら、サッポロはボロボロになりかねません」(業界関係者)

 それどころか、市場には「この夏にビール類の酒税見直しを断行し、発泡酒や第3のビールの息の根を止めかねない」と危惧する声さえくすぶっている。その延長に、市場減退の現状打破に向けた業界の再編が透けてくるだけに、国税が繰り出す“次の手”から目が離せなくなってきた。

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