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【不朽の名作】ハードSF邦画作品として色々な意味有名な「さよならジュピター」

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 1984年に公開された、『さよならジュピター』は、当時日本SF界を代表する作家として知られていた小松左京が製作・脚本・監督など、ほぼ全てに関わり、日本のSF映画を語る上で重要な作品の一つとなっている。が、面白いかというとそれは別問題だ。

 本作はハードSF作品を目指して、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』に匹敵する作品を作りたいと製作された作品だ。『スター・ウォーズ』人気に便乗しようとして、急遽突貫工事で作った『宇宙からのメッセージ』などとは違い、ちゃんと長く企画を練って作られた作品なのだ。しかし、世間的な評価はどうかというと悪いというか、酷評だらけだ。

 最近のレビューでは、『北京原人 Who are you?』や『幻の湖』などと並ぶ、邦画史上に名高い“迷作”として有名になっているほど。しかし、宇宙空間の描写などの演出は当時としてかなり頑張っている方だ。メカデザインも当時から『宇宙戦艦ヤマト』などのメカデザインで有名だったスタジオぬえが担当しており、ミニチュア感はありつつも、それほど悪いものではなかった。そもそも1968年公開なのに、CGてんこ盛りに出来る現在においても、超えられない演出がある『2001年宇宙の旅』と比べるのが悪いだけで。じゃあなにがダメかというと、特撮に連動して盛り上げる気が全くない脚本だ。

 この作品、大筋では太陽系に接近したマイクロブラックホールを、木星の爆発により、軌道変更させようとするプロジェクトを軸に展開されるのだが、そこにジュピター教団というヒッピー姿のテログループが登場したり、木星の爆発を主導する本田英二(三浦友和)とジュピター教団過激派・マリアが『ロミオとジュリエット』のような恋愛劇を演じる。しかも、かなり無理矢理に回想を入れて過去の関係を描写するという感情移入する隙もない方法で。さらに、その合間に火星の地上絵や木星で「ジュピターゴースト」と呼ばれる、数万年前に太陽系を訪れた宇宙人の母船と思われるものが絡んでくるなど、木星を爆発させる話と別の軸でのSF要素まで盛り込まれており、それぞれの話が断片的過ぎて、どうみても脚本が破綻している。

 『宇宙からのメッセージ』を例に出せば、『スター・ウォーズ』には到底及ばないチープな演出が指摘される作品だったが、深作欣二監督の時代劇やヤクザ映画を意識したノリや、ジャパンアクションクラブのアクション面でのアクの強さで、突き抜けた個性のある作品としては評価されている。しかし本作は「ハードSFモノ」なのか「恋愛モノ」なのか「パニックモノ」なのか、イマイチわからなくなっており、これと言った核になるものがない。本来はハードSFなはずなのに気合が明後日の方向に向かっているのだ。

 本作の脚本を練る際に何度も会議を重ねた結果こうなったらしいが、正直「どうしてこうなった!?」状態だ。まあ、最近の邦画やテレビ番組でもスポンサーや方々の偉い人の意向などで、似たような結果になることがあるので、珍しい例とは言えないが、本作の場合、小松が設立した株式会社イオが製作に東宝と共にクレジットされているという、大鉈を振るえるポジションにいるのにこうなっている点がかなり不可解だ。小説と映画というメディア違いは、ここまでおかしな方向に作品を持っていってしまうのか…。

 まず、複線を回収をする気がないのかと疑う展開が顕著だ。作品的に、おそらく本来重要だったはずの、ブラックホールと、地上絵やジュピターゴーストを残した異星人の因果関係がさらっとセリフの一部に盛り込まれるだけなので、普通に流し観をしていると、下手すると訳わからないまま終わる。このせいで異星人の話は投げっぱなしになっているような余計な誤解も生んでおり、酷評の声が大きくなる原因を作っている。他にも文字説明が多いのがかなり気になる。映画が始まった直後から文字での説明を入れるなど、Vシネマのホラーモノかよとツッコミを入れたくなってくる。無理矢理ヒッピー軍団との、光線銃での戦闘を入れる暇あったら、他の部分をなんとかすべきだったのではないだろうか。

 そして、この作品で一番問題なのが、ストーリーの大筋とあまり関係ないところでの絵的に強烈な演出だ。英二の友人が観ているゴジラ映画のシーンも必要性を全く感じない。さらに、いきなりサメパニックモノになる目まぐるしい場面転換や、ヒッピーが奏でるイルカを弔う歌、世界連邦大統領役の森繁久彌の笑いを誘うコスプレ姿など、鑑賞者を混乱させる要素がてんこ盛りなのだ。本作で一番有名であろう、無重力状態での濡れ場も大筋のストーリーに関係あるのかと思いきや、関連性があまりない。いやこれは観てるこっち側に理解力がないだけかもしれないが…。しかし、珍妙なセリフを英二とマリアが語り合うだけのあのシーンでなにを感じろというのか。しかも前記したように2人の関係は回想でしか語られてないのにだ。

 そもそも木星を爆発させるのが設定的に無理があったという人はいるが、そこはあまり重要な部分ではない。なぜなら、過去に1959年公開の『宇宙大戦争』や1962年公開の『妖星ゴラス』でも無茶苦茶なSF設定で宇宙を題材に描いているのに評価されているからだ。1984年といえば、本作のメカデザインを担当していたスタジオぬえが原作のアニメ映画『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が話題となった年と同じだ。しかも、既にアニメでは『機動戦士ガンダム』などのヒット作も抱えており、その影響かなのか、『ガンヘッド』などの例外を除けば、今後国内でSF色が強い作品はアニメで作られることが多くなる。もしかしたら、この作品の脚本が迷走せずに、ちゃんとブラックホールを避けるという一点に注目した作品だったらその流れは変わっていたかもしれない。

 ちなみにこの作品、globeのマーク・パンサーがカルロス・アンヘレスという少年科学者役として出演している。しかも重要な任務をこなすので、もし今から観る人がいるならその点も注目だ。あと、予告編の出来はかなりいい。もう詐欺なレベルで。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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