「(大坪会長が)自分の意思によって、このタイミングに辞任を発表すると決めた。私に意思を伝えたのが3月のある時期。当然(会長は)責任を感じ、今できることは何なのか自問自答をされて決めたと思う」
津賀社長は先輩である大坪会長を慰留したかどうかには言及しなかったが、パナソニックOBはにべもない。
「大坪会長が周囲の反発に引きずり下ろされるようにして出処進退を決めたのだから、津賀社長はウエルカムでしょう。実力者として君臨してきた以上、下手に引導を渡せば返り討ちに遭いかねません。その点、パナでは外様の長栄さんを後任会長に据えれば、大坪会長時代よりは独自カラーが打ち出せる。しかしパナの奥の院は魑魅魍魎が跋扈している。これで若葉マーク社長が『やっと俺の時代が到来する』と調子に乗ったら、どこで足を引っ張られないとも限りません」
大坪社長時代に会長としてコンビを組み、これまた「もう一人のA級戦犯」と名指しされている長老の中村邦夫相談役は、既に経営陣から退いていることもあって今回の人事では対象外。中村氏から社長、会長ポストを引き継いだ大坪氏が相談役ポストを飛び越えて特別顧問に退くのに対し、先輩の中村氏は今後とも相談役として目を光らせる。「これが社内力学に影響し、津賀社長のリーダーシップを左右しかねない」と前出のパナOBは指摘する。
「役員陣の中には中村さんに重用された面々がいる。同様に大坪さんに抜擢された者だっている。だからこそ津賀社長は人事にせよ戦略にせよ絶妙なバランス感覚を求められる。これを壊せば足元をすくわれないとも限らず、パナ奥の院を舞台にしたパワー力学からますます目が離せなくなってきます」
実際、中村会長−大坪社長時代の“負の遺産”と陰口されたプラズマテレビについては、一時期の「撤退」から「撤退も視野」にトーンダウンする始末。三洋電機の買収も同コンビの置き土産だけに、捨て身のバーゲン処分を決めた津賀社長への風当たりが強まるようだと、パナソニックの迷走に一層の拍車が掛かりそうだ。