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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第241回 国難をもたらしたのは、誰なのか?

 安倍晋三内閣総理大臣は9月25日の首相官邸における会見で、臨時国会の冒頭に衆議院の解散に踏み切ることを正式に表明した。会見において、総理は「この解散は『国難突破解散』だ」と表現。
 会見前半で、総理は経済成長率が6四半期連続のプラス成長になっていること、および雇用が増加していることを「成果」として挙げた。とはいえ、日本の経済成長率がプラス化しているのは、日本経済が再デフレ化し、物価がマイナスに落ち込んでしまっているためである。

 左図(※本誌参照)の通り、2013年から'15年にかけ一時的にプラス化したインフレ率(GDPデフレータ)は、'16年から再びマイナスに陥ってしまった。消費税増税をはじめとする政府の緊縮財政により、日本経済が再デフレ化したためだ。
 GDPデフレータ(物価上昇率)がマイナスになると、実質GDPが押し上げられる。現在の日本は典型的な「デフレ型経済成長」に陥っているのだ。これを「6四半期連続のプラス成長」などと誇られても、困惑してしまう。
 さらに雇用が増えているのは主に「医療・福祉」分野なのである。高齢化で介護などの需要が増え、さらに少子化で生産年齢人口比率が下がり、失業率や有効求人倍率が改善しているにすぎない。何しろ、この人手不足の最中でありながら、労働者の総実労働時間が減っているのだ。企業がフルタイムの雇用から、短時間労働者へ切り替えているのは明らかだ。何よりの証拠に、これだけ失業率が低下しているにも関わらず、実質賃金が上昇していない。

 さて、会見において安倍総理は「少子高齢化、緊迫する北朝鮮情勢」について「国難」と呼んだ。現在の日本は、確かに「国難」と呼びうる状況にある。'97年以来、20年も近く続くデフレーション、国民の貧困化。下がり続ける実質賃金、減り続ける実質消費。縮小が続く公共インフラ整備、科学技術予算、教育費。地方は「昭和」の時代から全く変わっておらず、それどころか退化していっており、日々、科学技術小国化が進む。
 防衛費は、昨今は増やしているものの、装備品(兵器)に予算をつぎ込む分、人件費を削減せざるを得ず、危機が深刻化する中、人員を減らしているという異様な状況。農協改革、種子法廃止、発送電分離、混合診療(患者申出療養)推進、派遣労働拡大、そして、外国人労働者受入拡大などの構造改革により、破壊されていく安全保障。崩れていく国民の「普通」の生活。
 挙句の果てに、北朝鮮核ミサイル危機、中国の尖閣諸島への侵略、南シナ海の内海化という防衛安全保障の危機。

 内憂外患。
 外患については、仕方がない面がある。本来、日本が21世紀初頭に憲法を改正し、防衛力を強化し、東アジアの軍事バランスを積極的に維持するべく動いていれば、現在の危機はなかっただろうが、これは安倍総理の責任とは言えない。
 とはいえ、内憂部分については、すべて安倍総理の責任だ。

 安倍政権は、なぜ'13年6月にPB(基礎的財政収支)黒字化目標を閣議決定したのか。なぜ、'13年10月1日に消費税増税を決断してしまったのか。なぜ、政権発足時点から竹中平蔵氏ら、構造改革主義者たちを重用したのか。
 農協改革も、混合診療も、派遣労働拡大も、発送電分離も、種子法廃止も、本来はやる必要がない「改革」なのだ。ところが、安倍政権は特定の企業や投資家におもねり、日本国民の「経世済民」に逆行する「改革」を推進した。不要なはずの改革を強行し、国民の安全保障や生活を壊すと同時に、各安全保障分野で懸命に働いている「同じ国民」を敵に回し、ナショナリズムをも壊してしまった。
 挙句の果てに、国家戦略特区でパソナの竹中会長をはじめとする一部の投資家、企業家に利する政策を推進し、政治不信を深めた。
 少子高齢化で人手不足になったのは、これは安倍総理の責任ではない。とはいえ、人手不足の深刻化を受け、なぜ「生産性向上のための投資」という資本主義国として正しい道を採らず、外国人労働者受入拡大という安易で間違った選択をしてしまったのか(もちろん、実質賃金を上げたくない勢力の政治力が強いためなのだが)。

 歴史に「もし」は許されない。とはいえ、筆者は歴史家ではないので、あえて「もし」を書いておこう。
 '13年以降、安倍政権が「もし」余計な構造改革を行わず、消費税増税や各種の支出削減という緊縮財政に背を向けていれば、今頃、我が国は実質GDPで最低3%の成長が実現し、余裕でデフレ脱却していたであろう。そうすれば、「GDP基準改定」などという情けない手法を使わなくとも、GDPは600兆円に達していたはずだ。
 さらに生産性向上で実質賃金が上昇していけば、婚姻が増え、少子化も解決の目途が立ったことだろう。日本の少子化の主因は「婚姻率」が低いことなのだ。そして、日本の婚姻率が下がっている最大の理由は、実質賃金の下落が止まらず、若者が結婚に踏み切れないことなのである。実質賃金が上昇し、GDPが600兆円に達し、少子化が解消に向かっていれば、今頃は堂々と「憲法九条の改正」を提起できたはずだ。
 筆者はもちろん憲法九条改正論者だが、今の時点の憲法改正は反対する。下手をしなくても、国民投票で否決されかねないからである。

 現在の日本は、確かに「国難」だ。
 とはいえ、政権を4年以上も担っておきながら「国難」に直面したならば、どう考えても施政者の責任である。現在の国難をもたらしたのは、「安倍晋三」という政治家その人なのだ。この事実を総理が認識していないとなると、それこそ日本は「国難」に直面していると断言せざるを得ない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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