5月9日、神奈川県川崎競馬組合(以下、組合)は、同競馬場池田孝厩舎所属の杉村一樹騎手(39)に対し、騎乗停止30日間という処分を発表した。杉村騎手は通算勝利数1000を優に超え、2010年にはJRAが開催した『第24回ワールドスーパージョッキーズシリーズ』に地方競馬代表(当時は熊本県荒尾競馬場所属)として出場、世界ナンバーワンジョッキーといわれるライアン・ムーアとも競い合ったことがあるほどの騎乗技術を持つ。
今回の処分理由は、1年以上にわたり調整室にスマホを持ち込み、外部と通信していたというものだが、その根拠となっているのが組合や地方競馬全国協会(以下、協会)に提出された元交際相手A子さんからの『告発』だ。
この告発から処分発表まで1カ月以上を杉村騎手への聴取などに費やしていることから、組合や協会がいかにこの問題の“軟着陸”に腐心していたかが分かる。
A子さんの告発には、(1)杉村騎手は妻子がありながらこれを秘匿して交際した。(2)交際を断った後の執拗なストーカー行為。(3)調整室への携帯電話(スマホ)の持ち込みの3つが指摘されているが、今回の処分は、組合が判断を下せる(3)に対してのみである。
しかし、その(3)についても「厩舎や馬の状態などの内部情報の漏洩」があったことが具体的に報告されているはずなのだが、公表された杉村騎手の処分については一切“漏洩内容”に触れず「通信を行った」としか記されていない。
なおかつ、杉村騎手は1年以上スマホの持ち込みをしていたにもかかわらず、組合は管理、監督体制が不行き届きであったことを認めず、謝罪もしていない。仮に手荷物検査やボディーチェックが厳正に行われていたと強弁するなら、杉村騎手がどうやってチェックをくぐり抜けたのかを調べるべきではないか。これでは組合の公正保持は「絵に描いたモチ」にすぎない。
本誌はA子さんを取材した。A子さんが、川崎競馬の騎手会会長を務める今野忠成騎手の紹介で杉村騎手と知り合ったのは、昨年2月頃のことだった。
「交際を始めて10カ月ほどたった今年2月13日のことでした。川崎競馬小向厩舎地区近くにある杉村騎手の自宅で片付けをしていて、ふと年賀状を見つけたのです。目をやると、印刷された幼い子供の写真の下に杉村騎手と妻子の名が入っていたので、卒倒しそうになりました。でも、彼はキレると大声で壁をたたいて度々荒れることがありましたから、その日は裏切りを詰問することなく自宅に戻ったのです」
その後、きっぱりと別れること、二度と会わないことを決心したA子さんに杉村騎手から長電話が入り、「嫁との離婚を決めてくる」「家まで迎えに行く」、揚げ句「会ってくれないなら卑猥なこともバラす」など脅迫じみた連絡が来るようになる。A子さんの自宅付近に熊本ナンバーの黒のワゴン車が止まっているのを家人が見たこともあった。こうした行為は、ストーカー規制法第2条にいう「つきまとい等」に当たる。
「私が彼を独身だと信じて疑わなかった頃には、調整室からだけでなく、レースの合間にもLINEが来ました。私も競馬の知識はありますから『それ、まずいんじゃないの?』と忠告すると、杉村騎手は『みんな携帯を持って調整室にいるよ。調教師や厩舎の人たちも知っているし、組合も黙認だもん。中央と違って緩いよ。SNSさえやらなければバレないよ』と平然と言ってのけたのです」