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現代妖怪考 袖引き小僧

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画像はイメージです。

 うら寂しい夜道を一人、歩いていると急に後ろから袖を引かれる。何かと振り返れば誰も居らず、引っかかるような物もない。はて、気のせいかと歩き出せば再び袖を引かれる。まるで、誰かに呼び止められているかのように。

 これが昔から埼玉県に伝わる怪異、妖怪『袖引き小僧』だ。主に埼玉県でも西部、比企郡などを中心に語られている。普通、妖怪が出るのは山奥などの人里離れた場所になるが、この妖怪は住宅地に現れる。夜遅く、人通りが少なくなり人家の灯りも乏しくなった頃に出歩く人間の後をつけ、後ろから袖を引っ張るのだ。ちなみに、写真の画像はかつて『袖引き小僧』が出たとされる場所である。建ち並ぶ家が変わったものの、現在も住宅地となっていた。

 こういった人の後を付いてくる妖怪は他にもいる。例えば後ろから気配と足音が聞こえるが振り返ったら誰もいない、足音が付いてくるだけの妖怪『べとべとさん』。みぞれ交じりの雨が降る寒い日に、濡れた足音が追いかけてくる『ぴしゃがつく』などだ。しかし、実際に後ろから付けてくる“何か”に直接触れられるというケースはあまりなく、しかも『袖引き小僧』は袖を引いてくるだけで特に悪さはしない。この点でも『袖引き小僧』が特異な性質を持った妖怪であることが伺える。

 幅広の袖を持つ着物を着用してきたからだろうか、日本には昔から“袖”にまつわる言葉は多い。悲しいときは『袖を濡らす』し、人との出会いを『袖触れ合うも多生の縁』と言うかと思えば、つれない態度を取ることを『袖にする』と言ったりもする。また、昔は愛しい人と別れなくてはいけない際に自分の着物の片袖を“自分の分身”に見立てて渡す事も多くあった。この事から、昔の日本人にとって“袖”とは人の魂や心と繋がるものという認識だったことが判る。『袖引き小僧』の名前についた『小僧』は、引かれる位置が下であることと、それ以上の悪戯をしてこないことから付けられたのではないかとされる。

 人の心の隙間に潜み、心細くなったときにちょっかいを出す怪しい存在が妖怪ならば、『袖引き小僧』は実に妖怪らしい妖怪であると言えるのだ。

(山口敏太郎事務所)

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