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俺達のプロレスTHEレジェンド 第47R マネジャーとしても名を成した銀髪鬼〈フレッド・ブラッシー〉

 フレッド・ブラッシーの名が日本中に知れ渡ったのは1962年の初来日時。その代名詞であるかみつき攻撃をテレビで見た老人がショック死し、これが一大センセーショナルとして巷間伝えられた(一説には4人亡くなったとも)。
 力道山とタッグを組むグレート東郷の額から血が滴り落ちるさまを、当時ようやく普及し始めたカラーテレビで見たことの刺激が強過ぎた…というのだが、しかし亡くなったのは第2次大戦中に現実の死を間近に見てきた人たち。それが額からの流血程度でなぜ? との疑念も起こるが、これはやはりブラッシーの卓越した表現力に起因するのだろう。

 相手にかみつくその間際の表情は、映画『シャイニング』のジャック・ニコルソンをも凌駕するほどの狂気に満ち、まさに悪鬼に憑かれたかのごとし。
 「食い殺さん」とばかりの形相にショックを受けたのは日本人だけではなく、当時アメリカでも死亡事故は多発していて、総計では数十名にも及んだという。今なら大きな社会問題ともなりそうだが、当のブラッシーは引退後「百人に到達しなかったのは残念だ」とうそぶいている。

 ブラッシーはこのスタイルを取り入れる際に「ドラキュラ伯爵をイメージした」というが、結果として衝撃度では本家をも上回ったのではなかろうか。徹底したヒールぶりからファンに命を狙われることも度々。また衛生観念の行き届いていなかった時代ゆえ、かみついた相手からウイルス感染して肝炎を患ったともいうから、まさしく命懸けのレスラー生活だった。
 「あと見過ごされがちなのが、その技術の高さです。額にかみつくという見せ場を作るためには、しっかり相手をコントロールしてその体勢にまで持っていかなければならない。もともとはジュニアヘビー級の正統派でしっかりレスリングのできる選手だったからこそ、抵抗する相手を抑え込んでかみつくまでの動きに不自然さがなく、説得力を持たせることができたのでしょう」(プロレスライター)

 そんなブラッシーに対し、力道山は「世界最強の選手」とまで評価している。
 ただしこれには裏があり、日本を本拠とする力道山では当時ルー・テーズの持つNWA王座を獲得することがかなわなかったことから、「真の最強はブラッシーで、つまりそれを倒した力道山こそが最強だ」というロジック構築のために言ったことではあるのだが…。

 引退は1973年。55歳のときだから選手寿命は長かったが、さらにその後もマネジャーとして長くリングをにぎわし続けた。
 スタン・ハンセンやハルク・ホーガンを筆頭に、'70年代半ばから'80年代にかけてWWWF(現WWE)のヒールレスラーの多くはブラッシーが育てたと言っても過言ではない。
 「当時は選手のキャラクターをつくるストーリーライターなどおらず、これはマネジャーの仕事でした。ブラッシーはその点で、自身の悪役マネジャーとしてのキャラ作りも含めて抜群のアイデアマンだったのです」(同・ライター)

 初期のハルク・ホーガンの来日時、ハデなジャケットを羽織り、ステッキで日本人選手を挑発するブラッシーの姿を記憶するファンも多いだろう。そんなマネジャーとしてのキャリアの中でも究極の一つが、猪木との異種格闘技戦に挑んだモハメド・アリに付いた件だ。
 「“ボクシング陣営にカネで雇われたプロレス界の裏切り者”などの誹りも受けましたが、これは実際にはWWWFが派遣したものではなかったか」(専門誌記者)

 事実、アリは猪木戦の直前にWWWFのリングに上がり、ゴリラ・モンスーンと乱闘を繰り広げている。
 「これは猪木戦の予行演習と見るのが自然で、WWWFとしてはプロレスとして猪木アリ戦を盛り上げ、その後もアリを絡めて商売にしようという考えがあったのでしょう。そうした中で盛り上げ役として、ブラッシーなら間違いないという信頼感があったのではないか」(同・記者)

 結果として猪木アリ戦はプロレス的演出とはかけ離れたものになったため、ブラッシーの見せ場も少なかったが、成り行きによっては“試合中、アリと対峙する猪木の後ろからちょっかいを出すブラッシー”なんて構図もあったのかもしれないのだ。

〈フレッド・ブラッシー〉
 1918年、アメリカ出身。正統派として活躍した後、'59年にヒールに転向。かみつき攻撃で大ブレイクする。初来日は'62年の日本プロレス。以後全日本、新日本にも参戦。引退後はマネジャーとして幾多のヒールレスラーを育てる。2003年死去。享年85。

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